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Ⅳ.月夜の遭遇
カスケは身を強張らせながら、ゆっくりと首だけを動かしてその声の方へ顔を向けた。しかしそこには誰もいなかった。
「……そこじゃないわ、下よ、下」
甲高い声に呼ばれるままに下に目線を送ると、そこには小動物を飼育しているであろう鉄製のケージが置かれていた。そして、その中で立ち上がり、格子を両手で掴みながらこちらへ呼びかけている、ハムスターの姿を見つけた。
「子ねずみ……? お前が俺を呼んだのか?」
「失礼ね、私は大人のオンナ。そしてネズミじゃない、ハムスターよ」
「はむ……すたあ?」
「アンタ、江戸時代からでもやってきたワケ? ハムスターも知らないとか令和の時代に考えられない無知ね。馬鹿という言葉に一文字使われているだけのことはあるわ。立派なのは角だけね、オツムは貧相」
たった一つの単語を知らなかっただけで数倍の罵詈雑言を浴びせられたカスケは、怒りを通り越して冷静になってしまった。
月夜に鹿とハムスター、不思議で衝撃的な遭遇であった。
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