孤高の詩人

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孤高の詩人

メールの着信音に揺り起こされた。 海風(オンショア)が運ぶ、ほんのり湿り気のある潮のかほりに絆されて、知らぬ間に眠ってしまったんだな。 そうだ、書きかけの一文に迷っていたんだっけ。ここの情景描写が少しばかり重いと。 窓越しの三日月のように、削げる言葉はないものかと…… まあそれはいい、今はいい。 兎にも角くにも君からの便りに心が逸る。 『素敵な言葉が嬉しくて、いつも楽しみにしているんですよ』 なんと………… にやけてしまった。 「脳裏になぜだかね、あの(きゅう)を背もたれに、のんびりと、天の川に釣糸を垂れるぼくの姿が浮かぶんだ。目深に帽子をかぶって」 『それではまるで、スナフキンね』 「ああ、君にほめられて嬉しくてさ。彼のように」 『孤高の詩人。憧れ?』 「分不相応なのは承知の上だがね」 『あらあなたの詩、わたしは好きよ』 「ありがとう、へへ……」 『ふふっ、ところでさぁ』 「なに?」 『もうすぐ七夕よね』 「あぁ、そうだが」 『あのね……』 「ん?」 『それで……スナフキンはさぁ、釣り上げた魚にね、何を……あげるのかしら』
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