7人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「トイレで溺れた」
時が止まった気がした。俺の想像力が限界突破して何が起きたか想像できちゃった。
「トイレで踏ん張ってたら犬化したみたい。たまっている水が大きいタイプのトイレだったから、頭がすっぽりはまっちゃったの。自分の父親が犬の状態でトイレに頭突っ込んで死んでるって、まあまあショックよ」
まあまあっていうか今凄いショックなんだけど、いろんな意味で。
「ごめん。それ、出した後?」
「脱糞前。きれいな水で溺れたから大丈夫」
「何も安心できない。要するにお父さん、小型犬だったってことじゃん。え、俺チワワみたいに小さいの?」
「何故か一人一人違う犬種。あんたがどんな犬かはわからない」
いやでも古い一族だったら、品種改良されて生まれたような室内犬じゃないと思うんだけど。せめて柴犬以上であって欲しい。いや柴犬も大概小さいか。シェパードぐらい欲しいな。
初めて犬化する時はマジで突然らしい。マニュアルがあるわけでもない、文字化して勉強できるわけでもない。自分で姿の切り替えを学ぶしかない。
子供の時になる人もいれば大人になってからなる人もいる。稀なケースだと胎児から犬だった人もいるらしい。だから親戚は産婦人科と病院経営してんのか。普通の所行けないもんな。
「ちなみにお母さんはカタギ。遺伝子の優劣があるのか完全にランダムなのか知らないけど、私は犬化しないタイプ」
「マジで。俺ガチャに当たったか」
犬化するやつの特徴は七歳くらいでクソ力となる。そうして犬化が進むにつれて五感が犬に寄っていく。犬は近視だ、いずれ近視になるみたいだけど俺はすでに近視だから置いといて。聴覚と嗅覚は異様に良くなる。
「味覚は?」
「犬って人間より味蕾が少ないから、いずれは舌馬鹿になる。お父さんもそうだった」
「姉ちゃん後世です、今のうちに松阪牛を食べさせてください」
「だめに決まってんだろ」
速攻で却下された。うちは貧乏だからしょうがないけど。
とりあえず馬鹿力は気をつけてきたから大丈夫。嗅覚と聴覚も大丈夫だと信じて。問題は味覚だ、友達と何を食べても美味しい不味いは正直に言えなくなる。味覚がなくなる病気になったとでも言っておけばいいかな。
「おはー」
「おはよ」
「ういー」
翌朝、浩一と那由多に合流した。毎日一緒に学校に行く面子だ。一応こいつらには先に言っておくか。
「俺味覚障害になったかもしれん」
最初のコメントを投稿しよう!