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第21話
医療センターは、西新駅方面から歩くと案外遠かった。特に、さっき立ち寄ったスーパーマーケットからはもう少し近いと思っていたのに、完全に思惑は外れた。
歩けども歩けども、波がうねるように入り組んだ道路と、背の高いマンションのせいで、医療センターはおろか海の気配すら感じられなかった。
「こんなに海って遠かったっけ?」
いつの間にか自分よりも前を行く純季に向かって、悠人はだるそうにそう問うた。
「図書館からタワーに抜ける道だったら、見通しも良いし一直線だから、海は近く感じるんだろ。俺たちはそっち側の道はよく利用するけど、ドーム寄りの道は曲がりくねってるから、進んでるのか戻ってるのかよくわからない。だから遠く感じるんだよ。おまけに周りには高い建物が多いし」
悠人が適当な気持ちで問うたことに、純季は律儀にそう答えた。
「あぁ、そうかもなぁ」
自分から聞いておきながら、悠人はだるそうに言った。
「医療センターには前に来たことはあったけど、地上を歩くとなんだか遠いな」
悠人達は、医療センターには何度か訪れたことはあった。でも大抵は、誰かの車に乗せてもらって、都市高速か海沿いの道から来ていた。地下鉄の駅方面から医療センターまで来るのは初めてだ。
地下鉄西新駅から高校や大学のある通りを海の方へ抜ける道は、そこに住む人々の生活のありようの違いを面白いくらい見せつけていて、興味深くもあり、気味悪くもあった。
駅近くの街並みは、最近でこそセキュリティの頑強そうな高層のマンションが数棟建ち並ぶようになっては来た。
ただ基本的には、数階建ての低層のアパートやマンション、もしくは築年数のそこそこいった、いかにも十数年来この街で生活を営んできたことを誇るような戸建て住宅が主だった。
新興のタワーマンションはそれらを威圧こそすれ、溶け込むことは出来ずにいるようだった。
駅周辺は、いまだに商店街がにぎわいを保っている。それもこのあたりの特徴かもしれない。
商店街の組合が主催する催事のポスターが張られているのも、なんだか時代を巻き戻されたような不思議な感覚を抱かせる。
翻って、よかとピア通りから北の海沿いのエリアは、タワーマンションが当たり前のように林立し、どこか地上の生活から隔てられたような印象を受ける。
もちろん、こういうマンションに住む人たちも、駅周辺に住む人たちも、ただその場所に住み、生活するだけの住民である。
住む人同士のつながりもあるだろうし、住む場所への愛着もあるはずだ。
実際、タワーマンションに住む住民たちが1階部分に設けられた広場でそれぞれの交流を持ったり、子供同士が楽しく遊ぶ姿を見かけることは多い、家族同士の付き合いも見られる。
しかしその繋がりが、マンションを越えて波及しているような気配は感じられなかった。
鉄骨鉄筋の巨木が、片手で引き抜けてしまえそうな貧弱な根を張って、無理やりに空へ空へと伸びていく。
そんな危うく頼りないものに依存する特殊なコミュニティを横目に見ながら、悠人は純季の後に続いた。
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