14人が本棚に入れています
本棚に追加
家の外が一層賑やかになってきた。楽しそうな笑い声や、近所の保育園に通う小さな子供が張り上げる声も聞こえてくる。
楽しそうだ、楽しそうだけれど、何がそんなに楽しいのか、大志にはわからなかった。
ここ数か月の間、大志は今まで当たり前のように持っていた、周りの出来事に感動したり、快感をおぼえたり、失望や落胆を感じる力すらすっかり奪われてしまっていた。
今や大志にとっての日常は、彼を取り巻く世界の出来事が自分の身体を透過していくような虚しい時間に過ぎ無かった。
その流れに網を張って世界を捕捉しようとする元気もない大志には、あってもなくても変わらないものだった。
自分がいなくても、世界は勝手に動いていく。そのことに気が付いてしまった大志にとって、朝の住宅街で朗らかに笑う人たちは、明るい太陽の下で笑顔になれる権利を持つ幸せな人たちとしか思えなかった。
学校に行かない時間がこんなに長くなるなんて、大志にとって思ってもいないことだった。挙句、高校を中退することになるなんて。
最初は学校に戻るように強く勧めていた親も、頑として動かない大志に、今は何も言わなくなった。
大志は動かないのではなく、動けなかったのだが、親にとってはどちらも同じことだったのかもしれない。すっかり会話も少なくなった。
最初のコメントを投稿しよう!