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「よし、とりあえず行こう。もう後は色々考えても仕方ない」
悠人はスーパーマーケットの駐車場から道路の方へ歩き出した。
純季はその後ろを、のそのそと着いてきた。相変わらず表情の読めない、不満なのかどうなのかも計りかねる顔つきのまま。
もし純季でなければ、悠人はこういう、極端に自分の感情を表に出さない人間を前にすると、不安で仕方が無くなっていただろう。
周りの雰囲気が平穏でなければ居たたまれなくなる悠人にしてみれば、何を望んでいるのかわからないような相手は何より気味が悪い。
もしも純季が赤の他人か、大して親しくもない知人やクラスメイトだったなら、悠人は自分で自分が可哀そうになるくらい気を使っていたに違いない。
いや、そもそもそこまで疲れるような相手には近づくことすらしなかったろう。
「あ、そういえば、なんでお前、米原さんの名前を知ってたんだ?言ったっけ、俺教えてないよな?」
思い出したように、悠人は純季の方を見て、言った。
「名前を教えるのが恥ずかしいんなら、メモなんか残さないで、心の中に刻んどけ」
そう言って、純季は右手を悠人に差し出した。彼の右手には悠人のスマートフォンが握られていた。
「え、なんで、いつの間に・・・」
呆気にとられる悠人の鞄のポケットにスマートフォンを滑り込ませると、純季は少し顔を近づけて言った。
「『米原さん お見舞い 作戦』、なんかそのメモ読んでたら、ちょっと恥ずかしくなった。消しといたほうがいいぞ。あとこれも忠告だけど、自分の誕生日を逆から打ち込んだ数字をパスワードにしたところで、推測する手間が一つ増えるだけで、セキュリティ上はほとんど無意味だからな」
言い終えると、純季は悠人を置いて、スーパーマーケットの裏から海の方へ向かって歩き出した。
悠人は慌ててその後を追いながら、スマートフォンに残したメモを全部読んだのかと純季に問いただそうか迷っていた。
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