月の静寂

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月の静寂

ながい  ながあい ときが ながれた。 どれほどの ときが ながれたのか それを きにすることも あきらめた。 きづけば わたしは こだかい おかの うえにいた。 わたしの からだは どろりとした みどりいろの なにかで ぬれていた。 かおを あげると よぞらには ぼんやりと うすあかるい まあるい まあるい おつきさまが みえた。 まわりには だあれも いない。 わたしを のこして だあれも いない。 けがをした わたしの からだ きずだらけの わたしの からだ わきだすように ながれおちるものは つきあかりを てりかえす どろりとした みどりいろの なにか。 でも わたしの すがたは あの みつかいの すがたではない。 ひとの すがたを かたどった いぜんと かわらぬ いぬがみの すがた。 しかし わたしの からだに ながれる ちしおは てんのみつかいと おなじもの。 ああ。 すでに。 あるじの かおも すがたも おもいだせない。 なかまの かおも。 でも あるじや なかまを おもうと むねの おくが あつくなる。 こだかい おかだと おもっていたのは うずたかく つみあげられた みつかいの しがいだった。 わたしは そのうえに たち よぞらに うかぶ おつきさまを ながめていた。 もんは とざされ にどと ひらくことはなく てんのみつかいが この だいちへ おりたつことはない。 おりたつための かては わたしを のぞいて ほかに ないのだから。 わたしは いったい なにものなのだろう。 いぬがみの すがたをしていても いぬがみでは ないような みつかいのようで みつかいでは ないような ひとのようで ひとでは ないような その きおくは うすれ おつきさまのように ぼんやりと している。 かんがえる ちからが なくなりかけて いるとしても わたしには ながい じかんが ある。 わたしが なんであるか なにものなのか どうでもいい ことかも しれないが ゆっくり かんがえると しよう。 やっと てにいれた あんそくの ときを よそらに うすく かがやく おつきさまを つつむ つきがさを ながめつつ。
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