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「……伊織さん?」  伊織の手に自身の手を重ねて目を閉じていた円香は、彼の指が微かに動いた気がして慌てて目を開け名前を呼ぶ。  けれど、やはり気のせいだったのか彼の様子に変わりは無いように見える。 「……気のせい、か……」  そう呟きながら眩しさからカーテンを閉めようと思い窓の方へ視線を移した、その時、 「……まど……か」  すごく小さくて、消え入りそうな声で名前を呼ばれた円香はもう一度伊織に視線を向け直すと、 「……伊織……さん……?」 「まど……か……」  彼の瞳が開き、視線が自分の方へ向けられている事が分かった円香は、 「い……おり、さん……伊織……さんっ」  伊織の名前を繰り返し呼びながら堪え切れずに涙を流すと、緊張の糸が解けたのか、その場に座り込んで泣き出した。 「……っひっく……いおりさん……、いおり、さんっ……」 「円香……、なんで、泣くんだよ?」 「だって……、だって……伊織さん、ずっと、目、覚まさないから……っ」 「悪かったよ……」 「私……本当に、心配で……、不安で……っ何も、出来なくて……」 「もう、大丈夫だから、泣くなよ……」  怪我の痛みがあるものの伊織はゆっくり自身の手を上げると、泣きじゃくる彼女の頭に手を置いて、泣き止ませようと頭を撫でる。 「うぇっ……い、いおりさ……っいおりさぁぁんっ」  けれど、伊織のその行為は今の彼女には逆効果だったのか、彼の優しさに触れた円香は余計に泣き出してしまう。  そんな円香を前にした伊織は、死の淵をさ迷ったものの無事に目を覚ます事が出来、愛しい彼女の元へ戻ってこられた事を実感すると自然に涙が溢れていた。
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