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「ふ、伏見さん、待って……」 「何だよ?」 「私、こんな事……」 「おいおい、ここまで来て嫌だとか言うなよ?」 「で、でも、私……」 「大体、男の部屋で無防備な姿晒してる方がいけないんじゃねぇの?」 「だ、だってこれは……」 「もう何でも良いって。興醒めするから黙ってろよ」  円香の訴えは伊織に届かず、ついにはブラジャーをも外されて胸が露わになってしまう。 「い、嫌っ……」  流石に恥ずかしさを抑えきれなくなった円香の瞳から涙が零れ落ちていく。 「や、やめて……」 「何だよ、泣く程の事かよ…………はぁ、興醒めだ」  流石の伊織も泣いてる女を犯す趣味は無いようで、溜め息を吐いて円香から離れた。 「ご、ごめん……なさい……」  何も泣く事は無かったと頭では分かっている円香だけど、意思に反して涙は次から次へと溢れてくるようで、謝りながら必死に拭う。 (何なんだよ、この女。このくらいで泣くとか、うぜぇ……。つーかコイツ、絶対スパイじゃねぇな。あー面倒なのに当たっちまったな、こりゃ……失態だ……)  女の泣き顔を見慣れている伊織は、円香が泣いていても慰めたりはしない。  面倒だと円香から目を背け、頭を搔いて立ち上がると、リビングに戻ってソファーに座り煙草に火を点ける。 「アンタもういいわ。服、乾燥機にかけてある。もう終わるはずだから、それ着てとっとと帰れよ。聞いた事、絶対話すなよ。話したらどうなるか分かるだろ? 危険な目に遭いたくなけりゃここでの事は全部忘れちまえ」  寝室に居る円香に聞こえるように言った伊織はリモコンを手に取りテレビを付け、「あー、夜中じゃ大したのやってねぇな……」なんて煙草をふかしながらつまらなそうにテレビに視線を向け続ける。  涙が止まり、乱れた髪を整え、外されたブラジャーを付けた円香は再び羽織っていた伊織のニットカーディガンを羽織り直すと、ベッドから降りてゆっくり歩いて行く。  帰れと言われた円香が向かったのは、 「……伏見、さん」 「あ?」  伊織が座るソファーの前だった。
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