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「え? あ、大丈夫ですよ、それくらい私が持ちますから」
「こういう時は素直に甘えるべきだぜ? いいからほら、早く必要な食材を選ぶぞ」
「は、はい! ありがとうございます!」
まだまだ異性と一緒という状況に慣れない円香は全てが手探り状態。
戸惑う事の方が多いものの伊織の優しさに甘える事にして必要な物を選んで行く。
そして、二人は暫く店内に留まってあれこれと必要な食材を選び買い物を済ませた後、
「あの、伊織さん、私も持ちますから」
「いいっての」
「で、でも……」
二袋になった買い物袋を自分が一つ持つと言って聞かない円香を諦めさせる為に伊織が取った行動、それは――
「――っ!?」
「これで手が塞がってんだから、荷物は持てねぇだろ? さっさと帰るぞ」
左手にバッグを持っている円香の右手をさり気なく取って繋ぎ、強引に納得させる事だった。
「あ、あの……荷物、重くないですか?」
「このくらい平気に決まってんだろーが」
「そ、そうですよね。男の人ですもの、私なんかよりも力はありますよね」
「そうそう。だからいちいち気にしてんじゃねーよ」
「……はい」
歩き始めて暫く、荷物を伊織一人に持たせている事に依然として罪悪感を持っていた円香は時折彼を気にかけるも、あまりしつこく聞くのも鬱陶しいかもしれないと考え気にするのを止めた。
(手を繋いでるだけなのに、凄く、ドキドキする)
手を繋いで歩く二人、伊織は特に何とも思っていない様子だけど、円香はそれだけで既に緊張していた。
(ドキドキするけど、やっぱり嬉しいな。会って、こうして触れられるのって。何だか、安心する)
たったこれだけの事でも会えなかった時間の淋しさは埋まっていき、円香は心が満たされていくのを感じていた。
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