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「あ、早瀬さん。ご無沙汰してます」 「こちらこそ。っていうか、こんな所でどうしたの?」 「……あの、実は……伊織さんからの連絡が途絶えてしまって心配で。便利屋さんの事務所の方に引越しをするって聞いていたので……訪ねてきちゃいました」 「そうだったんだ? そっかそっか。けど今伊織は仕事で出てるんだよね」 「そう、なんですね。それじゃあ、帰ります」  雷斗から伊織が事務所に居ない事を聞いた円香はがっくりと肩を落とすと、来た道を引き返そうとする。 「あ、ちょっと待ってよ。せっかく来たんでしょ? 伊織、夕方には戻ると思うし、良かったら事務所で待ってなよ」 「え? で、でも……」 「遠慮しないで。俺今日はフリーで暇してたんだよね。せっかくだから話し相手になって欲しいな」 「……それじゃあ、お邪魔します」  雷斗の提案で伊織の帰りを待つ事になった円香は共に事務所へ向かって行った。  事務所に着き、雷斗と話をしながら伊織の帰りを待っていると、 「あー疲れた」 「お疲れ、伊織。お客さんが来てるよ」 「客?」  夕方、疲れたと言いながら部屋へ入って来た伊織は雷斗の声に反応して来客用のソファーに視線を向けた。 「伊織さん、お疲れ様です」 「円香、お前……何でここに」 「すみません、いきなり訪ねて来てしまって。その、連絡が来なくて、心配で……」  まさか雷斗の向かい側に円香が座っているなんて思いもしなかった伊織はただただ驚くばかり。  久しぶりの再会とあって喜ぶかと思いきや、 「……はあ。あのさ、いきなり来られるとか迷惑なんだけど」  突然大きな溜め息を吐き、迷惑そうな表情でそう言い放った伊織。 「おい伊織! そんな言い方……」  伊織の言葉が予想外だったのか雷斗はすぐさま抗議するも、円香は何も言わないどころか戸惑いの表情を浮かべて立ち尽くしていた。
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