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 円香が伊織のマンションに泊まりに来たあの日以降、伊織の中で彼女の存在はどんどん大きく、かけがえのないモノへと変わっていた。  その事に戸惑い、自分の中の気持ちを打ち消していた。  けれど、そうすればする程円香への想いは強くなり、会いたい、触れたい、繋がりたいという欲望すら生まれていく。  好きな相手にそういった感情を抱く事は間違いじゃないし、当然の事。  しかし、伊織は自分が裏社会で生きる人間で、常に危険と隣り合わせな状況に置かれている事を懸念していたのだ。  人を手に掛ける――それは酷く大きな代償を支払う事になる。  いつか自分のせいで円香を巻き込んでしまう事、危険な目に遭わせてしまう事を酷く恐れていた。  だから、これ以上彼女への想いが大きくならないうちにフェイドアウトしようと思い、任務の途中ではあるが、マンションを引き払って事務所へ戻り、連絡も減らして少しずつ離れようと決意したのだ。 「悪ぃな、円香……これは全て、お前の為なんだよ」  本当は、会いに来てくれて嬉しかった。  すぐに抱きしめて、キスをして、触れたかった。  今だって、本当は円香を追いかけて謝りたい気持ちを必死に押さえ込み、辛い気持ちにひたすら耐えていた。  その夜、帰宅した円香は部屋に篭っていた。  時々スマホを見るも、依然伊織からの連絡はない。  いっその事、自分の方から送ろうかと思った円香は何度か文字を打ったものの、これ以上鬱陶しがられたらと思うと怖くてメッセージを送ることすら出来ないでいた。 「……嫌われちゃったのかな……もう、終わりって事なの?」  こういう時、どうすればいいのか分からない円香はいつものようにネットで検索してみるものの、良い解決策は載っていなかった。
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