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「ごめんごめん、そんなに悩むとは思わなかったよ。無理にって訳じゃないから気にしないでいいよ。今はね、海に向かってるよ」 「海に?」 「悩みがある時とか、考えたい事がある時って、たまに行くんだよね、俺」 「そうなんですね。私は海自体あまり行かないです」 「まあ車じゃないと遠いもんね」 「そうですね。でも海、良いですね。潮風が気持ちよさそうです」 「そうそう、それが良いんだよ。まあ、今は冬だから寒いけどね」 「確かに」  口数は増えていたけど表情はどこか暗いままだった円香。  しかし雷斗の気遣いのおかげか、円香自身も気付かないうちに表情には明るさが戻っていた。 「やっぱり少し肌寒いねぇ」 「はい。だけど、潮風が気持ちいいです」  海岸に着いた二人は車を降りて砂浜を歩きながら潮風を感じ、景色を堪能する。  冬の海なので人の姿はほぼなくて、波の音が聞こえてくるだけの静けさが今の円香には丁度良かった。 (……伊織さん、何してるかな……。海、一緒に来たかったな)  初めての彼氏である伊織とはあまり会えないし、基本どこかへ出掛ける事も無かったけれど、仕事が落ち着いたらデートが出来るかもしれないと密かに楽しみにしていた。  だけど、場所なんて重要ではなくて、伊織と一緒に居られさえすれば幸せだった。  それなのに、今はそれすら出来ない状況にいる事がたまらなく淋しいのだ。 「……円香ちゃん」  昨日、雷斗が伊織に言った『俺が彼女を貰う』発言は、本気だった。
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