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「あ……いや……、止めて……」  一気に恐怖が湧き上がってきた円香の身体は震え、か細い声で拒絶の言葉を呟くも雷斗には届いていないのか、それとも聞こえない振りをしているのか、表情を緩ませながら怯える円香の髪を撫で、 「大丈夫。そんなに怯えなくても平気だよ。優しくするから。ね?」  矛盾を孕んだ目つきで見つめながら円香の両腕を掴みあげると、逃げられないように片手で拘束した。 「や、めて……はな、して……」  いくら無防備で人を疑わない円香だって、何も分からない子供じゃない。  これから自分の身に起きる事がどんなに恐ろしい事か分かると、優しいと思っていた雷斗の事が怖くて怖くて堪らなくなる。  同じ事をされても、これが伊織相手ならば、恐怖心は無いのだ。 「お願い……やめて……っ」  耐え切れなくなった円香の瞳からは大粒の涙が溢れ出す。 「傷付くなぁ、何も泣かなくたっていいじゃない? そんな風に拒絶されると俺、もぉーっと酷くしたくなっちゃうなぁ」 「ひっ…………」  耳元でそう囁く雷斗の息が掛かったのと、掴まれていた腕の力が強まった事で恐怖がより強まった円香は悲鳴にも近い、弱々しい声を上げた。  腕を拘束され、身体の上に跨っている雷斗の重みから逃れる事が出来ない円香に為す術はなく、首だけを振って必死に抵抗する。 「俺はね、円香ちゃんの事、良いなぁって密かに想ってたんだよ? 伊織の代わりに、俺が愛してあげる。だから、泣かないでよ」 「……っ」  雷斗が優しく言葉を掛けても、指で涙を掬ってくれても、その言葉も想いも円香には届かない。  円香は心の中で、ただひたすら祈り続けていた。 (いや……怖い……、助けて……助けて、伊織さん!!)  来ないと分かっているけれど、今一番会いたい、助けて欲しいと願う人を思い浮かべながら心の中で叫び続けていた。 「さ、もう泣くのは止めようよ、これじゃあ俺が酷い人みたいじゃん?」 「…………っ」 「俺は泣いてる女を抱きたい訳じゃない。酷くしないから」 「ひ、酷い人です……貴方は…………すごく、酷い人……」  泣くだけではどうにもならない、自分で何とかしなければならないという思いが円香を変え、震える声で、キッと雷斗を睨みつけながら円香は言葉を続けた。
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