549人が本棚に入れています
本棚に追加
円香を自宅近くまで送った伊織がマンションへ戻る途中、忠臣から招集がかかり事務所へと足を運ぶ。
「伊織、急に悪いな」
「いえ、問題ないっす」
「とりあえず座ってくれ」
「はい」
居住スペースのリビングで話をする事になり、雷斗の座るソファーの横に腰掛ける伊織。
「実はな、ようやく詐欺グループのボスが誰だか分かったんだ」
「マジっすか?」
「ああ、警察の方で尻尾を掴んだんだ」
「それじゃあ、後は実行するだけって事ですね」
「意外と早く片付きそうで良かったな」
忠臣の言葉に喜ぶ伊織と雷斗。
しかし、忠臣の表情はどこか浮かない様子だった。
「どうしたんですか? そんな浮かない顔して」
「実はな、厄介な相手なんだよ、そいつは」
忠臣が『厄介』と言った相手は、国民であれば誰もが知っている政治家の一人で、近年圧倒的な支持を得ている善人面、榊原 義己 という男だった。
「ああ、あのいけ好かない感じのオッサンか」
「分かる分かる。なんか胡散臭い感じしてたよな」
国民の支持を得ているものの、榊原には伊織や雷斗のような印象を持つ者も少なくない。
国民の為と色々意見したり、改革しようと活動しているものの、それはあくまでも犯罪を隠す為のカモフラージュ。
実際は詐欺グループのまとめ役や人身売買の元締めなど、金と地位を守る為なら何でもやるような極悪党だった。
「大物政治家が相手となると、これまで以上に警察は動けない。俺らも慎重に動かなけりゃならない。分かるな?」
「はい」
「伊織、企業での潜入捜査はもう終わりだ。黒幕が分かった以上、これ以上下っ端を探っても無意味だ」
「分かりました」
「雷斗は引き続き情報収集を頼む。榊原の人間関係、屋敷内部、行動パターン、余すこと無く全てを調べ上げて欲しい」
「了解です」
「それじゃあ、引き続き頼む。――と、伊織、少し話がある。いいか?」
「はい」
「それじゃあ、俺は部屋に戻りますね」
忠臣が伊織に話があると言うので、雷斗は早々に部屋へと戻って行く。
残された伊織と向かい合う形で座る忠臣は、何かを考えた後に話始めた。
最初のコメントを投稿しよう!