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 三階建てのそのビルの二階が便利屋の事務所なので上がってみると、便利屋の営業時間終了時刻は18時となっていた。  しかし、まだ明かりがついているのでノックをしてみようとドアに手を近付けた、その時、中から伊織の声が聞こえてきた。  そっとドアを開けてみると、少し離れた場所で窓から外を眺めながら、誰かと電話でやり取りをしているようだった。 (電話中か……どうしよう、話を聞いちゃまずいよね。一旦外へ出て、もう少ししたらまた来てみよう……)  そう思いドアを閉めようとすると、伊織の口から不穏な言葉が聞こえて来た。 「――ああ、だから、今回少し多めに用意して欲しいんだよ。そうだな、特に弾は多めに、それから銃も数丁欲しい。相手が相手だ、雇われの雑魚共も沢山いるだろうから、多く準備するに越したことはねぇだろ?」 (……え? 今、銃って、言った?)  聞き間違いかと思い、とにかく一旦外へ出ようと静かにドアを閉めた円香が後ずさった、次の瞬間、 「誰だ!? 動くなよ」  電話を終えたのか伊織が微かな物音に気付くと外へ向かって大きな声が放たれ、円香はその場から動けなくなってしまう。 (どうしよう、絶対、聞いちゃいけない話だった)  流石の円香にも分かる。今の話がどれ程聞いてはいけないものだったか。  バンッと、勢いよく開かれたドアから伊織が姿を現すと、ドアの先に立っていた円香の姿に思わず目を見開いた。 「お前……何で、ここに」 「あ……あの、その……話が、あって……」 「……分かった、とりあえず車出すから行くぞ」  そう言って伊織が円香の腕を掴もうとすると、 「っ!!」  身体を強ばらせて怯える円香に伊織は全てを悟る。先程の電話を聞かれていたのだという事を。 「あ……ご、ごめん、なさい……私……」 「いい、謝るな。とにかく着いてこい。安心しろ、お前に何かするとかねぇから」  円香から顔を背け、無言で階段を降りていく伊織の背中を眺めながら、彼女もまた階段を降りて後へ続いて行った。
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