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「伊織さん……それ、本気で……言ってるんですか?」
「ああ」
「私たち、御付き合い、していたんですよね?」
「あー、まあ、そうだったかもしれねぇな」
「それなら、どうしてそんな事を、言うんですか?」
今にも泣き出しそうな円香を前にした伊織は、一瞬気が緩みそうになる。
本当は、今すぐにでも円香を抱き締めたい、彼女をどこか遠くに連れ去ってしまいたい、そう思っていた。
けれど、それは出来ない。
これからも自分は任務の為に、動かなければならない。
円香を危険な目に遭わせる訳にはいかない。
大切だから、愛しているから、そんな彼女には、幸せな未来を生きていて欲しい。
今は辛くても、自分と居ない方が幸せになれるに決まってる。
そう考えた伊織は冷めた瞳で真っ直ぐに円香を見据えると、
「俺、お前みたいな温室育ちで何も知らずに育ったような女は嫌いなんだよ、この世で一番な」
はっきりとした拒絶を、円香に示したのだ。
「お前さ、いつまで俺に騙されてる訳?」
「え……?」
「さっき、事務所での電話の話も聞いただろ? 俺はな、ただの便利屋じゃねぇんだよ。分かるだろ?」
「……言ってる、意味が……分かり、ません」
冷めた表情で淡々と話す伊織を前に、円香は酷く胸が締め付けられ、泣きたいのを必死に我慢していた。
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