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「……え?」
その声を聞いた瞬間、耳を疑った円香。
追い詰められているせいで幻聴が聞こえて来たのかも知れない。
そう思いながらもゆっくり声のした方に顔を向けてみると、
「円香……」
「……伊織……さん……」
ずっと会いたいと願っていた伊織の姿がそこにあった。
「い……おり、さん……ほんと、に……?」
目の前に居るのに、未だ幻ではと疑う円香。
そんな彼女の不安を消すように、伊織は優しく円香の身体を抱き締めた。
抱き締められて温もりを感じる事が出来た円香は、ようやくこれが夢でも幻でもない事を肌で実感し安心したのか気が緩んだ彼女の瞳から大粒の涙が零れ落ちていく。
「うっ……えっ……、ひっ……く……っ」
声にならない声を上げてただ涙を流す円香に、伊織の胸は押し潰されそうな程の怒りと悔しさでいっぱいだった。
「悪かった、お前をこんな目に遭わせて……」
その言葉と共に更に強く円香を抱き締める伊織に、弱々しく首を横に振る円香。
伊織のせいじゃない、そう言いたいのに、泣きじゃくっているせいで言葉が出て来ない。
話したい事は山ほどあるが、今はまだその時では無い。
「――円香、とりあえずここから出よう。歩けるか?」
名残惜しさはあるものの、一旦円香を腕の中から解放してそう問い掛ける伊織だが、円香は首を横に振って自身の右脚を指差した。
すると、先程まで布団に隠れていた円香の白く細い足首には鎖が繋がれていた。
その光景を目の当たりにした伊織は、気が狂いそうな程の狂気に襲われる。
ただでさえ、円香を見つけた時の伊織は一瞬目を疑った。
元から華奢だった円香が更に痩せ細っている姿を見ただけでも目を覆いたくなったのに、白いキャミソールのワンピースを身に纏っただけの彼女の肌はほぼ露出され、腕や脚を始め身体の殆どの部分に赤い痣や切り傷、擦り傷のような細かい傷が付けられていて、白い服も埃と血で汚れているのを見た時は、息が止まりそうな程驚き言葉すら出て来なかった。
それなのに、こうして逃げられないように脚を鎖で繋ぐなんて、普通では考えられない光景だった。
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