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 勿論伊織一人なら今すぐにでも相手に立ち向かっていくのだが、相手はただ威嚇する為に銃を持っているような人間で、大抵撃つ勇気など持っていない小者だ。  けれど颯が自暴自棄になり、万が一にも引き金を引いた場合、流れ弾が円香に当たってしまう恐れもある。  それに加えて伊織が懸念しているのは、最悪の場合、円香の目の前で颯を撃ち殺す事になるというところだった。  円香に限らず、人を殺し慣れていない者の前で誰かを殺める行為は、誰だって躊躇するだろう。  どうにかして円香だけでも部屋の外に出したいと考える伊織だけど、ドアの前には颯が引き連れて来た男が三人程控えているので、自分が颯の相手をしている隙に円香を逃がす事が不可能だ。  考えに考えた末、伊織は円香に背を向けたまま小声で、 「円香、俺が合図をしたらすぐに身をかがめてベッドの下に潜り込め。それから、俺が良いって言うまで目を閉じてろ……出来るか?」  そう円香に確認をとると、その言葉に円香は迷うこと無く「はい」と小さく返事をする。  自分を信じてくれている事が解った伊織は口元に薄ら笑みを浮かべると、 「今だ!」  一言そう叫び、その声に円香は言われた通り身をかがめてベッドの下へと潜り込む。  颯は伊織の声に驚き、その隙をついて円香がベッド下へ身を隠した事に気付いてすぐにそちらへ銃口を向けようとするも、それは伊織によって阻まれる。 「お前には、聞きたい事がある」 「な、何だよ?」 「円香を、アイツをあんな酷い目に遭わせたのはお前で間違いねぇな?」 「ああ? だったらどうだって言うんだよ? アイツと俺は夫婦も同然なんだ。どう扱おうと俺の勝手だろ?」 「夫婦だ? まだ籍も入れてねぇだろうが」 「婚約者なんだから、入れたも同然なんだよ……ああ、もしかしてお前がアイツの初めての男か?」 「はあ?」 「いつまでも勿体ぶってヤラセねぇからてっきり処女かと思ったら違ぇし、嫌がってた割に意外と身体の反応良かったから正直驚いたぜ。そうか、お前がアイツの男で、アイツを開発したのか。はは、だったら悪い事したなぁ。俺がしっかり躾てやったぜ。もうお前とじゃ、物足りねぇかもしれねぇなぁ」  颯のその言葉で、円香が無理矢理犯された事に気付いてしまう。  このやり取りをベッドの下で円香がどんな思いで聞いているのかと思うと、悔しくて堪らない。 「下衆が!」  円香を物扱いしただけでなく、身も心も深く傷つけた(このクズ)を伊織は到底許す事が出来なかった。
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