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血溜まりの中に倒れる颯や男たちを前に冷静さを取り戻した伊織は誰かがやってくる前にここから出ようと円香が身を隠すベッドまで歩いて行く。
伊織に言われた通りベッドの下で目を閉じていた円香だが、一部始終は聞こえていた。
颯との会話も、伊織が彼らを撃ち殺した事も。
すぐ近くで人の気配を感じた円香は恐る恐る目を開けようとするも、
「今からここを脱出するが、お前はもう少しそのまま目を閉じてろ、いいな?」
「……はい」
伊織はまだ暫く目を閉じていろと言うので、ベッドの下から抜け出すも目は閉じたまま。
「あの、でもこのままじゃ、逃げられないです……」
「心配すんなよ。こうすれば問題ねぇだろ」
「きゃっ!?」
目を閉じたままだと動けないと心配する円香の身体を伊織は抱きかかえた。
「何があってもお前だけは守るから、俺を信じて大人しくしてろ。怖い事は、何もねぇから」
「…………はい」
円香は何故、伊織が目を開けるなと言ったのか初めはその意図が分からなかったけど、部屋を出る直前に感じた血生臭い匂いでその意図を察した。
今この場で目を開けてしまうと撃ち殺した颯たちの亡骸を目の当たりにする事になるので、伊織はそれを防ぐ為に目を閉じていろと言ったのではないかと。
確かに、人が殺されているところを見るのは覚悟が必要だし、伊織が彼らを撃ち殺した時の銃声を聞いただけで身体が震えていたから、その配慮はものすごくありがたかった。
ただ、それと同時に殺し屋である伊織は常にこういう環境に身を置いて居るのかと思うと、円香はすごく悲しい気持ちになる。
そんな円香の心情に気付かない伊織は彼女を抱きかかえたまま慎重に屋敷から外へ出る。
するとそのタイミングで誰かから電話がかかってきたので敷地内から出て安全な場所までやって来た伊織は電話に出た。
「伊織、無事か?」
「忠臣さん、はい、無事です」
「そうか、なら良かった」
「……すみません、俺、ターゲットじゃない男たちを手に掛けました」
「――そうか。まあとりあえず後処理は任せろ。こちらで手配した。ひとまず戻って来い。話がある」
「分かりました」
忠臣との電話を終えた伊織が円香に声を掛けようと抱きかかえたままの彼女に目をやると、安心したのか気を失うように眠り込んでしまっていたので、起こさないよう円香を連れて事務所へ戻る事にした。
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