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「雪城家は警察に警護を要請してあるから問題ない。それと、君の両親に詳しい話は出来ないが、君がある人物に狙われているから警察の方で保護すると伝えてあるよ」 「そうなんですね。それなら良かったです」  忠臣から家族の無事が伝えられると安堵の表情を浮かべて喜び、そして、 「……あの、それじゃあ私も、暫くお世話になります。置いてもらう間は私に出来る事があれば何でも言ってください」  忠臣の提案を受けて先の一件が片付くまで事務所で生活をさせてもらう事を決めた。  事務所での生活は、円香にとって戸惑いの連続だった。  ただでさえ異性に慣れていない彼女が三人の異性とひとつ屋根の下で過ごすのだから当然と言えば当然だ。  しかし彼らもまた、これまで長い間男所帯だった事もあって女性が居る生活に日々戸惑いを感じていた。  お互いが居る状況に未だ慣れない中、共同生活を初めてから二週間程が経ったある日の事、 「伊織、急で悪いが一件やって欲しい案件がある」  忠臣が一枚の紙を伊織に差し出し、そう告げた。  その紙に目を通した伊織はソファーから立ち上がると、 「……分かりました、それじゃあ今から行きます」 「悪いな」 「いえ」  まるで近所へ使いにでも行くかのような軽いノリで行われた会話だが、これはHUNTERとしての依頼を受けるという事。  円香が事務所で過ごすようになってから初めての案件とあって、こんなにもあっさり交わされた会話に驚きを隠せない。 「……い、伊織さん……あの……」 「ん?」 「……あの、気を付けて、くださいね」 「ああ、行ってくる」  どんな内容なのか気になる円香だけど、それを聞く事は出来ず、本当は行って欲しくない気持ちでいっぱいだったけれど仕事の邪魔は出来ないと引き止めたい気持ちを抑えて『気を付けて』と口にするのが精一杯だった。  そんな二人のやり取りを見ていた忠臣と雷斗も何だか複雑な気分になったのだが、こればかりはどうする事も出来ず、この件に触れる事はなかった。  この時伊織が受けた依頼は江南家の当主と長男の抹殺だ。  次男である颯を殺され自分たちも狙われるとすぐに雲隠れしたのだが、警察幹部が二人の居場所を突き止め、榊原に関わっていた人間は排除すると上層部が決定を下したので早急に手を打つ事に決めHUNTERに依頼してきた。  忠臣は自分がやっても良かったのだが、前もって伊織から『江南家関連の依頼があれば全て自分が受けたい』と言われていたので迷うこと無く彼に託したのだ。  しかし、そうとは知らない円香は複雑な思いと不安で落ち着かない時間を過ごしていた。
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