シチナ・ランプロス

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シチナ・ランプロス

 トントン。    前回の依頼から五か月後。  ノックの音が聞こえ、フィーネは作業の手をとめる。この音がした時の客は、人間だ。  昼寝にちょうど良い時間。だが、フィーネは睡魔に打ち勝ち、最近後回しにしていた部屋の片付けを行っていた。   「少し待って下さい!」  客に断りを入れ、すぐに準備に取りかかる。  準備とは言っても、ローブを着て、フードを被るだけだった。  まだ少し散らかってはいるが、片付けるよりも早急に出た方が良いだろう、と判断する。    ドアに駆け寄り、ノブを回す。 「お待たせしました! クロッツへようこ……って、ディアン!」 「お久しぶりです、フィーネさん」    ドアを開けると、背が高く少し影のある爽やかな美青年、ディアンがいた。青藍の瞳に、長めのサラサラな黒髪がミステリアスな雰囲気を醸し出している。左耳のみピアス穴が開いており、青い半透明の小さな立方体、という少し変わったモチーフのものを付けていた。    しかし、良く見れば、今日はラフな格好に剣を所持している、という装いだった。  それでもなぜか決まって見え、『これだから顔が良いやつは』と心の中で皮肉を言ったのは秘密である。 「ちょっと! お客さんだと思ったじゃない!」  フィーネが睨みつけると、ディアンはいたずらっぽく笑いだした。 「すみません。久々だったので、引っ掛かってくれると思って」  そう言うと、彼はフィーネの横を通り抜けて家に入り、客用の二人がけの椅子に座った。 「そんなに久々だったかしら」  依頼がなければ、いつも変わらない日々を過ごすフィーネ。彼女の時間の感覚は狂っている。  フィーネはドアを閉めてから、ローブを脱いだ。 「お茶は?」 「飲みたいです」  返事を聞いてキッチンへ移動する。    魔石の埋め込まれたポットを出すと、お湯を沸かし始めた。 「いつもので良いでしょー?」 「良いですよー」  戸棚に手を伸ばし、茶葉を出す。  種類はオリジナルのもの。庭で育てたハーブと茶葉を乾燥させ、使用している。  ハーブは料理だけでなく、ポーションの材料など幅広く使えるため、育てて損はない。  透明なポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。  茶葉が舞い、湯が染まっていく。  フィーネがお茶を淹れることが好きな理由の一つは、これを見ることができるからだった。  少し湯気が立つ程度まで冷ましてから、彼の元へ戻りお茶を提供した。 「どうぞ」 「ありがとうございます。……美味しいです。この味が好きなんですよね」 「それはそれは」  フィーネは一旦キッチンへ戻り、自分のお茶も用意してから彼の正面に座った。 「今日はどうしたの?」  ディアンはカップを置いてから答える。 「いえ、これといった用は無いです。二週間ほど休暇が取れたので。実に三か月ぶりの休みです」  三か月ぶりの休みではある。が、それは一日や二日間などの短期休暇である。長期間の休みは実に一年ぶりだ。彼は長期休暇でしかここにやってこられない。 「……何が言いたいのかしら?」  重そうな荷物を持っていた事から大体予想はつくが、一応聞いてみた。  すると、ディアンはにっこりとしながら、 「泊めて下さい」  と、思った通りの発言をした。 「家に帰れば良いでしょう」 「そんな意地悪言わないで下さいよ。僕の家は」  ドン!  ドアの方から音がした。このタイミングで客が来てしまったが、どうしたものか。 「僕に構わず出て下さい」 「ごめん、ありがとう。そっち移動してくれる?」  ダイニングテーブルの方へ移動してもらう。  彼はダイニングチェアへ腰をおろすと、部屋をゆっくりと見回しながらお茶を飲み始めた。  フィーネはそれを見てからドアへ向かう。ノブを掴み、開けた。 「ようこそ、クロッツへ! お入り下さい」
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