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フィーネはある家の扉を叩く。
すると、少し経ってから住人が出てきた。
「こんにちは」
「あ! 先日はどうもありがとうございました」
出てきたのは、あの日フィーネとぶつかった男だった。
テオと子猫たちを観察した後、二人は父親を探した。市場を歩き、テオが「パパ!」と指で示したのは、案の定、この男だった。
「お姉ちゃん!」
あとからテオも顔を出す。
「今日はどうなさったんですか?」
「渡したいものがあります」
テオと目線が合うように屈むと、後ろに回していた手を前に出す。
「わあ! マフラーだ!」
「そうよ。プレゼント」
「いいの?」
「ええ、もちろん。テオのためのものなんだから」
「ありがとう!」
テオは受け取ると、嬉しそうにはしゃいでいる。
「ありがとうございます。本当によろしいのですか?」
父親がフィーネに問う。彼女は立ち上がり、笑顔で答えた。
「はい。少し大きめに作ってありますので、長く、大切に使っていただけますと幸いです」
「分かりました」
父親はその言葉に少しの違和感を覚えたが、正体までは掴めなかった。
それでは、とフィーネはオルコット家を去って行った。
父親は家の扉を閉めると、テオの手からマフラーを取る。そして、ゆっくりと優しく首に巻き始めた。
「テオの誕生日をお祝いしてくれて嬉しいな!」
「うん! でもぼく、お姉ちゃんにたんじょうび教えてないよ。なんで分かったのかなあ」
父親は手を止めて、テオの顔を見る。
「テオが教えたんじゃないのか?」
「ううん。おなまえしか教えてないよ」
父親が眉をひそめたその時、マフラーから一枚の紙が落ちた。
「なんだ?」
父親がその紙を拾う。テオも横から覗いた。
「なんて書いてあるの?」
「ごめんな。パパは読めないんだ」
父親は、それを棚にしまった。捨てることはできそうになかった。
『お誕生日おめでとう。大人になっても使えるように、今度は赤じゃなくて灰色と青で作ってみたよ。気に入ってもらえたかな?』
テオがこれを読むのは、もう少し先になりそうだ。
ネコたちは、赤い毛糸の帽子の中で、仲良く寄り添いながら冬を越すだろう。
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