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「少しお待ちください」
「はい」
ディアンは応接室へ通され、ジェインとお茶を待っている。
ここまで歩く際、怪しまれない程度に屋敷を観察したが、箱を設置するのに最適な場所は見つけられなかった。
箱はどこに置くべきか。透明化していないこの箱を隠すにはどうしたら良いのだろう。片手に収まる大きさではあるが、隠すとなるとこの大きさは巨大な部類なのではないか……? などと意味の分からないところまで考えてしまったため、思考を止めた。
「お待たせしました」
侍女がお茶と茶菓子を持ってやってきた。
朝から何も食べていない腹が鳴りそうになるが、彼は気力で抑えた。
「どうぞ、お召し上がりください」
出されたのはショートケーキとストレートティー。
「……とても美味しいです」
甘いケーキと砂糖の入っていない紅茶は、相性が良い。
「良かったです」
彼女は安堵の表情を見せた。
しばらくディアンとジェインが談笑していると、ガチャ、と突然ドアが開いた。
「ディアン卿! 本日はお越しいただき、ありがとうございます」
ゲラーデと同じくらいの年齢の男性だった。
彼はジェインの父親で、現当主のデリック・ランプロスだ。
ディアンとジェインは慌てて立ち上がった。
「お、お父様。ノックもしないなんて。あまり慌てないで下さい」
「はっ! も、申し訳ございません。あ、あの、今日はどういったご用で……?」
「ディアン卿は、ちょっとした事故でうちにお入りになってしまっただけです」
「え、ええ、そうなんです。大変申し訳ございませんでした」
「そんな! お顔を上げてください!」
(……このくだり、さっきもやったな)
* * *
「今日は本当にありがとうございました」
「いえ! いつでもお越しになってくださいね」
「は、はい」
ジェインに見送られ、ディアンはランプロス邸を後にした。そして、フィーネがいそうな場所に移動する。
「あ、お疲れ様! ごめんなさいね、ディアン」
フィーネはディアンの予想通りの場所にいた。
(……なんか元気になってるな)
こんなに大変な任務を遂行している間、フィーネさんは家に帰って休んでいたのだろう。そして、頃合いを見てこっちに戻って来たんだな、とディアンは考えた。
「はあ……。最善の選択だったとは思います。でもなんか一言下さいよ」
「ご、ごめんてば」
一応悪いとは思っているらしかった。
「それにしても、ディアンがお茶飲んで来るとは思わなかったわ。……ジェインちゃん可哀想ね…………」
最後の方の言葉は小さく、ディアンには聞こえなかった。
「何て言いました?」
「なんでもないわよ。じゃあ、帰りましょうか」
「え、買い物は良いんですか」
「ええ、終わらせてきたわ」
フィーネは空いた両手を見せた。買った物を家に置いてきたことも伝えたかったのだろう。
ディアンは、少し項垂れる。フィーネとの買い物を密かに楽しみにしていたのだ。
「じゃ、そういうことだから。ね?」
嫌な予感がした。彼の予感はよく当たる。
「……なにで帰ります……?」
少し怯えたようなディアンに気付かず、フィーネは笑顔で答えた。
「もちろん、馬車よ!」
「あの……体、痛くなるんですよね……?」
「あの疾走感をもう一回味わいたいの」
「そう、ですか」
(もう一仕事、頑張れ、僕)
自分を鼓舞し、ディアンはもう一走り、全力で魔法を使うのだった。
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