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63 頭上で聞き慣れた心地良い声が喋り出す。 「やっと捕まえたわ…おっまえさぁ…昔っから逃げんのだけは上手いよな」 軽いパニックが襲う。 ドンと累の胸を突き飛ばしていた。 一瞬目を丸くした累と視線がぶつかる。 「違っ…ぁ…ぁのっ…」 累はお構いなしにまた俺に近づき、ギュッと身体を抱きしめた。 「…おまえに…話したい事がある」 耳に触れる累の唇が冷たくて、ギュッと目を閉じた。 俺は今、累に抱擁して貰えるような人間じゃない。 どうしよう どうしよう 「る…ぃ…」 「ん?…何だ?」 「はな…して…」 「…バァ〜カ」 「はな…してよぉ〜…うっ…ひっ…うぐっ…」 「離してっていいながらこんな抱きつく奴…見た事ねぇよ…」 累は更に俺を抱きしめて、髪を撫でた。 「落ち着いたか?」 近くの安っぽいチェーン店のカフェに入った。 深夜だから、そんな場所しか開いてなかった。 奥の角に座った俺達はどこからも死角になっている。 更に累が前に座るから、俺の汚く泣き崩れた顔は誰にも見られる事はなかった。 注文もスマートに済ませた累のおかげで、俺はトイレで顔を洗っている間に届いたあったかいコーヒーを口に出来た。 頬杖をついてそんな俺を眺めてくる累。 「…見過ぎだよ。」 カップをソーサーに戻してぼやいた。 「…そ?減るもんじゃねぇだろ」 相変わらず横柄な物言いにたじろいでしまう。 「…そ、そうだけど」 「居留守常習犯はこんな遅くまでどこほっつき歩いてたんだ?」 大きな溜息混じりに問いかけられて肩を竦める。 「し、仕事が…」 「はい、嘘つき常習犯」 「…っ…あの…」 「やっぱいい…大体分かる。」 累は髪を掻き上げながら足を組み替えた。 俺は俯いてしまう。 「俺がさ、宮沢と会うなって…言った意味…考えた事ある?」 涙ぼくろが二つ並んだ左側にコテッと頭を傾ける仕草が絵になり過ぎて見惚れてしまう。 「口…開いてる」 「っ!あっ!ごめっ!…相変わらず…カッコイイから」 「飼い主様に見惚れたってか?」 「おっ!俺は犬じゃないっ!」 「約束が守れない駄犬ちゃんなのに?」 「そっ…それはっ」 目が泳ぐ。長い指先が伸びて来て顎を引くけど、お構いなしに累の指先は俺のフェイスラインをなぞりクイと上向かされた。 「どうして…おまえなのかな…」 言葉と合わない優しい微笑を浮かべた累。 キュンとするような顔をしないで欲しい。 蓋をした気持ちは簡単に鍵を開け放つ。 「九年前…おまえは黙って出て行った」 スッと手を離され、やっぱり俯いてしまう。 「俺から逃げたのは…どうしてだ?」 累はさっきと違う切ない顔で俺を見つめた。
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