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翌朝、俺は仁坂からのLINEで目が覚めた。
"今日の約束忘れんなよ"
寝ぼけた目を擦りながら、溜息を吐く。
「忘れるわけないだろ…昨日の今日じゃん」
約束したのが、何週間も前なら分からなくもないけど…。
LINEにもう一度丁寧に溜息を落とした。
そして、何より虚しいのは、約束をするような友達はここ数年居ないと実感させられた事だ。
会社が終わって、人と会うなんて、歓送迎会と忘年会で会社の集まりがある時くらいだ。
俺は小さな会社でプログラマーをしていて、残業というのも、ここ最近では無いに等しい。大きな企業ならもっとSEから仕様書がおりてくるのだろうけど…。
何はともあれ、残業せずに帰宅出来るのはありがたい話だった。
趣味のドラマ鑑賞が録画なしできっちり見れるのだから。
そんな毎日なもんだから、本日も残業なくきっちり定時に仕事が終わってしまった。
スーツのポケットから携帯をとり出して時間を確認する。
「居酒屋に…行けばいいんだよな」
LINEに仕事が終わった事を入れて、昨日飲んだ居酒屋に向かった。
平日とて、客は多い。もともと陰キャなわけだから、こんなところが日常的に好きなはずもなかった。
暖簾を潜り、昨日と同じ場所に腰を下ろす。
ガヤガヤとした喧騒の中、まだ来ない仁坂を待つべきか、先に飲み始めるべきか迷っていた。
注文をしないまま、混み合った店内に居るのは気まずい。
俺はビールを頼んで、お通しの小鉢をつついて待つ事にした。
それから一時間が経った。
遅い…流石にお通しで粘れない。
仕方なく枝豆や、秋刀魚を注文して、携帯を覗いた。
タイミグ良く仁坂からLINEが入る。
"もう着く"
俺はこのままドタキャンを覚悟していただけに、仁坂がここへ向かっているのが分かって不思議な気持ちだった。
高校の頃、散々弄ばれたせいだろう。
「悪りぃ、待たせた」
「えっ」
仁坂が店に駆け込んで来て発した言葉に、俺は目を丸くしてしまった。
仁坂が謝ったのだから。
「何だよ、その顔」
「いや…まさか謝るとは…」
「あ゛?」
顎を上げて俺を上から睨む顔は相変わらず迫力がある。
俺は肩を竦めビクッと怯えながら「ごめんっ!」と謝った。
罵倒されると思ったのに、続きが来ない。
あれ?と片目ずつ目を開くと、仁坂はムスッと膨れたまま席についた。
「び、ビールで良い?」
注文でもして機嫌とらないと!
俺はとりあえず手を上げ店員を呼んだ。
「ジョッキでいいよね」
「あぁ…」
「お腹…空いてない?これ、美味しいよ」
とにかくご機嫌とりするように秋刀魚の塩焼きを彼の方へ押した。
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