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仁坂は素直に差し出された秋刀魚の塩焼きを、割り箸で摘み、薄く形の綺麗な口に運び入れた。
「お、美味しいだろ?」
「まぁ…」
淡白な返事を貰ってしまい、会話が終わってしまう。
何を話すべきか…俺は汗をかいている自分のビールジョッキを見つめながら考えを巡らせていた。
「おまえ、何怖い顔してんだよ」
「へっ?!」
仁坂に指摘され、頰を撫でる。
怖い顔なんてしたつもりはなかったんだけど…。
そんな事を考えていると、向いで頬杖をついた仁坂がフワッと優しく微笑んだ。
もう、まさに王子様の微笑みってヤツで、来た時に顎をしゃくり恐怖の顔をした人と同一人物とは思えない。
「ほんっと…相変わらずさえねぇ面してるわ」
吐いた言葉は王子ではなかった。全くもって仁坂は仁坂だ。
「わ、悪かったね。相変わらず冴えない顔だよ。仁坂とは住む世界が違うんだってば。そんな完璧な顔してる奴には分かんないよ」
ボソボソと文句を言うが内容は仁坂を誉めているのだから、怒りはしないだろう。
そう思って顔を上げると、仁坂はまた微笑んだ。
「さっ、さっきから何ニヤニヤしてんだよ」
「…山田、彼女も彼氏も居ないんだよな?」
「…ゲイだからね。彼女は絶対居ないでしょ。知ってるくせに…」
「あぁ…知ってる。俺が躾けたんだから。首輪して、手錠して、プラグぶっ刺して」
「ちょっ!!こんなとこで何言ってんだよっ!」
「だから俺のもんになれよ。」
「…は?!」
「だからぁ!もう一回俺のモノになれって言ってんだよ」
仁坂は俺に向けて箸を揺らした。
「逃げたんじゃないって…言ったよな」
昨日、再会に乗じて俺に逃げたと言う仁坂に、確かに逃げたんじゃないとは言った。しかし、何故こうなるっていうんだ。
二人の関係上、圧倒的ヒエラルキーの高い仁坂は、俺と何をするにも有利でしかない。
「た、確かにっ!確かに言ったよ?…だけど」
「何?断るつもり?」
「ぃ…いや、そうじゃなくて…その…俺のモノになれって言われても、それって」
「俺と付き合えって言ってんだよ」
神様ぁ…どうかこの俺様キングをなんとかして下さい!
そのタイミングだった。
テーブルに置いていた携帯が鳴る。
手に取ろうとしたら、その携帯は簡単に仁坂に奪われてしまった。
「友達居ないのに、LINE来るんだ…」
琥珀色の瞳はあまりにも澄んでいて、睨みつけられた俺は、昔、拘束されながらしたエッチを…
不覚にも思い出してしまった。
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