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12 仁坂は素直に差し出された秋刀魚の塩焼きを、割り箸で摘み、薄く形の綺麗な口に運び入れた。 「お、美味しいだろ?」 「まぁ…」 淡白な返事を貰ってしまい、会話が終わってしまう。 何を話すべきか…俺は汗をかいている自分のビールジョッキを見つめながら考えを巡らせていた。 「おまえ、何怖い顔してんだよ」 「へっ?!」 仁坂に指摘され、頰を撫でる。 怖い顔なんてしたつもりはなかったんだけど…。 そんな事を考えていると、向いで頬杖をついた仁坂がフワッと優しく微笑んだ。 もう、まさに王子様の微笑みってヤツで、来た時に顎をしゃくり恐怖の顔をした人と同一人物とは思えない。 「ほんっと…相変わらずさえねぇ面してるわ」 吐いた言葉は王子ではなかった。全くもって仁坂は仁坂だ。 「わ、悪かったね。相変わらず冴えない顔だよ。仁坂とは住む世界が違うんだってば。そんな完璧な顔してる奴には分かんないよ」 ボソボソと文句を言うが内容は仁坂を誉めているのだから、怒りはしないだろう。 そう思って顔を上げると、仁坂はまた微笑んだ。 「さっ、さっきから何ニヤニヤしてんだよ」 「…山田、彼女も彼氏も居ないんだよな?」 「…ゲイだからね。彼女は絶対居ないでしょ。知ってるくせに…」 「あぁ…知ってる。俺が躾けたんだから。首輪して、手錠して、プラグぶっ刺して」 「ちょっ!!こんなとこで何言ってんだよっ!」 「だから俺のもんになれよ。」 「…は?!」 「だからぁ!もう一回俺のモノになれって言ってんだよ」 仁坂は俺に向けて箸を揺らした。 「逃げたんじゃないって…言ったよな」 昨日、再会に乗じて俺に逃げたと言う仁坂に、確かに逃げたんじゃないとは言った。しかし、何故こうなるっていうんだ。 二人の関係上、圧倒的ヒエラルキーの高い仁坂は、俺と何をするにも有利でしかない。 「た、確かにっ!確かに言ったよ?…だけど」 「何?断るつもり?」 「ぃ…いや、そうじゃなくて…その…俺のモノになれって言われても、それって」 「俺と付き合えって言ってんだよ」 神様ぁ…どうかこの俺様キングをなんとかして下さい! そのタイミングだった。 テーブルに置いていた携帯が鳴る。 手に取ろうとしたら、その携帯は簡単に仁坂に奪われてしまった。 「友達居ないのに、LINE来るんだ…」 琥珀色の瞳はあまりにも澄んでいて、睨みつけられた俺は、昔、拘束されながらしたエッチを… 不覚にも思い出してしまった。
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