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14 息苦しい沈黙は、多分話を盛ったとしても、ものの15秒程だったと思う。 「付き合ってたのかよ」 仁坂の言葉に、俺は俯き、首を左右に振った。 付き合っていたんじゃない。 あれは、体の良い玩具だったんだよ。 …俺と怜は、完全にセフレ関係でしかなかった。 「何だよ、それ…」 「相手…ノンケだったし…か、彼女だって居たし…別に…付き合うとか…言葉にし合った事なんて…一度もないし」 俺の恋愛遍歴を語る時はどうしてこんなに残念なんだろう。ろくにまともな関わりを持ってこれてない証拠をひけらかすようにして引き出しの中は空っぽだ。 肩を落としため息を吐くと、仁坂はタバコを咥えた。 ジッポを俺の前にコトンと立てて置く彼は、涙ぼくろが二つ並んだ左側に首を傾けて言った。 「俺がタバコを手にしたら火をつけろ」 「…火?…コレで?」 「無くすなよ」 使い込んだ銀のジッポライター。 「でも」 「逃げたんじゃ…ないんだろ?」 「それはっ!!」 ガタンと椅子を鳴らして立ち上がりそうになる。 「…何?」 仁坂は首を傾げたままクスクス笑い、咥えたタバコを揺らした。 "人間てのはね、図星刺されたら一番怒るんだよ。 そーゆー生き物なの、分かる?" このまま怒りでもしたら…俺は仁坂から逃げたと証明してしまうようだった。 ゆっくり腰を戻して、立てられたジッポを手に火を差し出す。 仁坂は綺麗な顔を、火ではなく俺に向けながら近づいてくる。 そうだ、まるでキスでもするように。ジッと視線が絡む。 俺はゴクッと喉を鳴らしてしまい、フイと視線を逸らす。 ジジッと先端に火がつく音がして、仁坂が離れるのが分かった。 フゥーッと吹きかけられた紫煙に目を閉じて咽せる。 「ちょっと…ゴホッゴホッ…やめてよ」 「罰だろ?」 「ゴホッ…ば、罰?」 ドンと机に肘を突いて前に上半身を出した仁坂はニヤッと笑って囁いた。 「おまえ今、俺でやらしい事考えたじゃん」 仁坂の言葉で、一気に顔が熱くなる。 あの頃からそうだった。琥珀色の透き通る瞳で、何でも見えてるみたいに俺を翻弄する。 「あ〜ぁ…また、赤くなっちゃって…」 仁坂は灰皿に灰を落としながら、上目遣いに俺を見た。 食卓には、中まで暴かれ、裸にされたような秋刀魚が、食い散らかされて皿を汚している。 ソレをつつく仁坂の箸先は官能的で 俺にとって、ただのエロスだった。
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