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15 仁坂に怜からのLINEを見られ、何かを誤魔化すかのごとく、浴びる様に酒を飲んだ俺は、居酒屋を出る頃には足元がおぼつかなくなっていた。 別に悪いことをしていたわけじゃないのに、過去に教育された身体は数年経っても立派に仁坂の思うがままなのかも知れない。 良い香りがする仁坂に肩を抱かれている事だけは分かる。 タクシー… 下手な運転… あー…吐きそう… 「ゔぅっ!」 おもむろに口を塞ぐと、運転手が嫌な顔でバックミラーを覗き込んだ。 「お客さんっ!吐かないで下さいよっ!もぉ〜、一万貰ったから乗せたけど、コレだから泥酔はぁ〜」 何だ? 一万? 誰がそんな大金… 俺はそこで初めて目が覚めたように身体を起こした。 「あ、あのっ」 「大丈夫ですか?あの〜住所、合ってます?すっごいイケメンのお兄さんがあなたを乗せて、ここで良いって」 運転手は俺の住所が書かれたメモをひらつかせた。 「…そこで、大丈夫です。」 すっごいイケメンのお兄さんて…仁坂の事で間違いないよな… でも、住所…何で知ってんだ? 俺はリュックを開けて中をゴソゴソと弄った。 財布…はある…待てよ… 俺は財布のカード収納のポケットから免許証がなくなっている事に気づいた。 都会暮らしのしがないサラリーマンには車を所有出来るほどの稼ぎはなく、免許は地元でとったきり、ペーパードライバー。もはや、身分証にしかならないカードだ。 しかしっ!! こんなの泥棒と一緒だろ! 俺は慌てて携帯をポケットから出して画面をタップしかけた。 「着きましたよ」 下手な急ブレーキにより、ガクンと身体が前倒しになり、膝に乗せていたリュックが足元に落ちる。 「うわっ…」 「あぁ、大丈夫ですかぁ?お代は頂いてますんで」 ニマニマしながら笑う運転手。 一万も受け取ってるのに、釣り銭も出さないなんて、信じられない。 怒りそうになるが、自分の金でないことが引っ掛かり口を結び、足元に落ちたリュックを乱暴に抱え上げた。 タクシーを黙って降り、ワンルームマンションに帰り着く。 玄関を入ってすぐに、もう一度携帯を手にし、仁坂の番号を鳴らした。 「はいは〜い」 ちゃらんぽらんで揶揄う様な声がする。 「おいっ!俺の免許証っ!」 「家、着いたの?」 全く動じない仁坂に、タクシー代を出させた事を思い出して、グッと言葉に詰まった。 「つ、着いたよ。…飲みすぎて悪かった。タクシー代、今度返すから」 仁坂はクスクス笑っている。 「聞いてるのか!今度会ったら俺の免許証!」 「今度?…フフ、いつにするぅ?」 「っ!!仁坂っ!わざと免許証っ」 「スーツの内ポケットにジッポ入れといた。免許証は今度会ったらちゃんと返してやるよ」 必死に笑いを堪えている仁坂にイライラした。 「な…何でこんな事」 「…言ったじゃん、俺のモノになれって。なのに、山田、違う男とあぁ〜んなLINEしてんだもん。意地悪したくもなんだろ」 「あんなって…」 「エロいやりとり」 「エロくないっ!!」 「エッチしてたんだろ?怜ってヤツと」 「だっ!だからっ!それは大学の時の話でっ!」 「…気にいらねぇんだよ。いいか?ソイツと付き合ったら、おまえのあんな事やこんな事…会社にバラすぞ」 低い声が腹に響く。それでも俺は、歯向かう様に声を出した。 「はぁっ?!」 「言ったからな」 仁坂はあくまで冷静だ。 「そっそんな事…」 「次、会える日、LINEしろ。じゃあな」 通話は一方的に切れた。 俺は力なく玄関にヘタリ込む。 「何考えてんだよ…仁坂」 膝に顔を埋めると、治っていた吐き気に襲われた。
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