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16 シャワーを浴びた俺は、ソファーに腰を下ろして天を仰いだ。 「…仁坂が騒がし過ぎて、怜に返事出来てない…って言っても…会った翌日に告白とか…なんで大学ん時にしてくれなかったんだよ…」 独り言が虚しすぎる。 怜は真面目で優しく、カッコいい。 つまりめちゃくちゃ女にモテる。今や大企業勤めだし、ノンケのアイツにとっちゃパラダイスみたいな勝ち組人生に違いない。 今更、何で俺なんだ。 仁坂と怜からの告白。 まさかのゲイのモテ期に、俺は若干引いていた。 こんなのは夢で、本当は目が覚めたら毎日同じ日々の繰り返しを流れ作業みたいにこなす俺に戻ってるんじゃないか…と。 しかし、携帯には二人のLINEが残っている。 襟足と前髪の長い金髪ウルフヘアで、チャラチャラとピアスやネックレスを身に纏い、仕事も何をしてるか分からず、過去に俺を調教していただけあるドSの仁坂。 かたや、短髪黒髪、大企業勤めで真面目。過去の関係では、その優しさのせいか優柔不断…により、セフレ止まりから進まなかった怜。 両極端過ぎる…。 良いのか悪いのか…。 いやいや、普通なら即答で怜だ。 だが俺には厄介な性癖がある。 仁坂が気づいた俺のマゾヒストな一面。彼はそれを植え付けた本人でもあるわけだが、俺にとって、性の一致は心を侵食するに値する価値があった。いや、きっと誰でもそうに違いない。性の不一致は持続を阻害する。 だからといって、安心や温もりが嫌なはずは無い。 怜は穏やかだし、何より、陰キャの俺とよくつるんでくれた。話も合うし、一緒に居て落ち着く日々だった。怜のゆっくり喋る話し方が好きだし、記憶している限り、友達の割には随分と甘えさせてくれた。 選ぶ? 漠然と不思議な言葉が浮かんで、俺はため息を深く吐いて携帯のLINEを開いた。
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