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「じゃあ、望み通り…嫌がらせとして、俺に抱かれろよ…大人しくな」
冷えた声…
何でそんな切ない顔してんだよ
意味わかんねぇよ
「仁坂っ…」
必死に名前を呼んだら、仁坂は大きなため息を吐いた。
「チッ……興が醒めるってよく言ったもんだな…」
ガチャガチャと手錠の鍵を外し始めた。
「へっ?…あっ…に、仁坂?」
自由になった手首を摩りながらベッドから上半身を起こした。
「どーぞ」
仁坂は寝室の扉を手のひらで案内して、ツンとそっぽを向いた。
「え」
「え?って…自由になったじゃん。帰れば?あぁ…免許証はリビングの机の上。ジッポは……もぅやるよ。」
投げやりの言葉なのに、何故だか寂しそうに呟いた仁坂。窓の外に向けたままの視線は動かない。
俺はシャツのボタンを留めて、緩んだネクタイを締め直した。
ベッドから降りて、寝室の扉の前まで来て、仁坂を振り返る。
仁坂は出て行く俺を見ない。
まるで綺麗な彫刻みたいに、動かず、窓の外をボンヤリ見ていた。
バタンと音がして、扉を後ろ手に閉める。
リビングに向かうと、そこもモデルルームみたいに無駄な物はなくて、大画面のテレビを囲んで洒落たソファーが並んでいた。
ソファーの前にローテーブルがある。
そこに、俺の免許証がポツンと置かれていた。
スラックスのポケットに手を入れる。
冷たいジッポに手が触れて、引き出そうとした瞬間…。
「…何で…こんなの」
光る赤い石のピアス
テレビボードの隣りに置かれたコレクションケースらしきガラス棚の一段に、それはキラキラと玩具らしい安っぽい輝きを放って…
大事そうに
飾られていた。
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