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23 暫く固まってしまっていた俺は軽いパニックを起こしていた。 卒業式が終わって、お互いに制服を脱がし合い、もつれる様にベッドに入った日、事が終わって、仁坂がシャワーを浴びてる間に、俺は彼の部屋を飛び出し、そのまま東京行きの新幹線で地元を離れた。 捨てられるのが怖かったのかも知れない。 友達だったはずなのに、俺は仁坂がどこの大学へ行くのかさえ知らなかった。 身体ばかり重ねて、甘い時間が青い時間を埋めていた。 俺は仁坂の何をも知らない。 それが怖くなって…俺の存在だけでも消せないように、このピアスを置いて出たんだ。 カチャッとじんわりドアが開く音。 寝室から力なく仁坂が出て来て、俺を見るなり顔を歪めた。 「…んだよ…まだ居たのか駄犬。さっさと帰れよ。もう、用は無いだ…ろ」 俺がコレクションケースの前に立っている事にようやく気付いたらしい仁坂は、少し動揺したように目を見開いた。けれど、すぐに平然とした態度に戻る。 「ソレ…見覚えあんの?」 ケースを顎で指す仁坂。 俺はコクンと頷いた。 「ふぅん…」 「だってこれっ!」 「それはっ!!!」 仁坂は俺の言葉を大声で遮り、続けた。 「実家の部屋に転がってたから、引越しの時、荷物に混ざったんだわ。置く場所もないからそこに入れてるだけ。で?なんで駄犬がコレ知ってんの?」 コレクションケースから赤いピアスが入った箱を取り出し俺に突き付けてくる。 仁坂が知らないわけない。 部屋に転がってたんじゃない。 引越しの時、荷物に混ざったわけでも無い! 仁坂は俺が置いていったんだって知ってる。 引越しの時、持ってきたんだ。 コレクションケースには、高そうな時計、サングラス、指輪やアクセサリーが並んでるけど、赤いピアスは安い箱に入っていて、何段かに分かれた棚の一番上に一つだけ丁寧に置かれていた。置く場所がないから置いてあるようにはとても見えない。 そこに飾るにはあまりにも不釣り合いだ。 そう、当時、俺が仁坂には不釣り合いだと感じたように、それは間違いじゃ無い事を知らしめてくるようだった。 「いらないから…やるよ」 仁坂はそのピアスが入った箱を突き出し、涙ぼくろが二つ並んだ左側に小首を傾げる。 彼の見慣れていたはずの癖が…何だか突然、遠くに感じた。
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