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24 俺は胸が痛くなり、その箱を手にして仁坂のマンションを飛び出した。 仁坂にとって俺は駄犬で、躾や調教を楽しむ相手でしかなかった事は分かってる。 理解してるつもりだったのに! 理解してるつもりだったのに! 恥ずかしい! 情けない! 久しぶりに再会して、付き合えなんて言われて、勘違いして、みっともない。 そもそも、俺なんかが、仁坂と釣り合うわけがないんだ。あんなモデルみたいに綺麗な女性が幾らでも周りにいる仁坂になんか…。俺は完全に良い玩具にされて、揶揄われたんだ。   いらないと言われたピアスの箱をどこかのコンビニのゴミ箱にでも捨ててやろうと思った。 だけど俺は根性なしの陰キャだから… あの頃の思い出を、捨てられなかった。 おまけに…。 スラックスのポケットには銀のジッポ。やるとは言われたものの…こう、思い出が増えては息が詰まる。 ゴシッと涙を拭い、古びたピアスの箱をポケットに押し込んだ。 こんな事なら、怜にもっと早く返事をすれば良かったんだ。 ちゃらんぽらんな仁坂にペースを持って行かれて、すっかり振り回されてっ! 馬鹿馬鹿しい… バカバカしいはずなのに、さっきから痛む胸はすっきりしない。 きっとジッポを持ったままだからだ。 また…返しに行こう。 ちょっと落ち着いたら…そうだ。落ち着いて、冷静になれば、何食わぬ顔をして、突き返せる。 俺はタバコを吸わないし、こんなもの、必要ないんだから。 家に帰る前に、いつものスーパーで、安酒をみつくろって帰った。 仁坂のマンションと違い、狭いワンルームマンションは俺をホッとさせた。 缶ビールのプルタブを引いて、プシュッと音を鳴らしたら、そのまま小さなソファーにふんぞり返って座った。 ゴクゴクゴクッとめちゃくちゃ喉が鳴る。 泣いた分の水分を取り戻すように酒を煽った。 2、3本開けた頃、良い気分で携帯を覗いてみた。 もちろん、仁坂からの連絡なんてない。 だからじゃないけど、俺は怜のLINEを開いていた。 "お疲れ。LINE見た。また改めて話せるかな。" そう送った俺に、 "ありがとう。時間作ってくれるんだね。嬉しいよ。また都合、連絡して。" それが最後のやりとりで、怜を二週間以上待たせている事になっている。 「最悪…」 自分の自己中具合に呆れて毒づいた。 それから、少し考えて、明日会えないか聞いてみる事にした。 今は一人でいたくない。 平穏で、地味で、静かだった毎日で良かったのに、掻き回した仁坂が許せなかったんだ。
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