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27 今日も我が社は定時退社。 本郷はいそいそと帰り支度を済ませている。 そこに課長がやって来て、本郷だけが訂正案件を押し付けられていた。 「手伝おうか?」 「大丈夫!山田は今日約束あるっつってただろ?コレ意外と秒で終わる訂正だから!」 「マジ?」 「マジマジ!あんがと」 「おぅ…じゃ、お先」 「うぃ〜!」 本郷はパソコンに向かう。俺は彼より先に会社を出た。 "今、会社出た。" 怜にLINEを入れると、すぐに返事が来た。 地図が添付されている。 "この店、来れそう?" "大丈夫。向かうね" “俺も今から向かう" 携帯の地図を眺めながら、そんなに遠くないなとタクシーを拾った。 車のドアが閉まった瞬間に、一瞬長身の金髪が見えた気がして、走り出した車から後ろを振り返ったけど、どうやら気のせいっぽい。 金髪を見るたびに反応しそうな自分を残念に思った。 タクシーはスペインバルと看板が上がった店の前に止まった。 「ありがとうございます」 運転手に礼を言いながら車から降りる。 中に入ると、店員が「一名様でしょうか?」と尋ねるので、「連れが」と答えると、奥に案内された。 個室になった部屋へ通され、そこには既に怜が座っていた。 「早いね。」 そう言いながら向かいに座る。 暖色の灯りは店内のムードを高める。 テーブルが大きめで、向かいに座った俺は、怜との距離を感じながらも食事が始まった。 「何だか緊張するな」 怜はそんな事を言いながら、赤ワインの入ったグラスを近づけてくる。俺は少し身体を乗り出して、同じようにグラスを傾け、カチンと合わせた。 「俺も…朝から実は緊張しちゃってる」 「大学の時は、殆ど一緒に居たのにね」 「ふふ、殆ど一緒に居たかなぁ?怜はずっと彼女と居たよ。俺、よく一人で昼飯食ったりしてたもん」 「えぇ〜、そうだっけなぁ」 黒い短髪の髪を困ったように掻く怜。 「そーだよ。怜はあの頃も凄くモテてたもん。優しくて、真面目で、大企業に内定決まったら、またファンが増えたの、知らないの?」 「全然覚えてないやぁ」 そう言いながら、右手の痣を撫でる。 昔からの怜の癖だ。 俺はそれを視界におさめながら、ピンチョスに手を伸ばした。 怜がその手を握り、俺は一瞬ビックリして顔を上げる。 グイッと引っ張られ、身体は向こう側へ引き寄せられる。 「…ンっ…………怜」 机の真ん中で唇が重なり、ゆっくり離れると、そのまま掴んでいた手を離された。 怜は、視線を逸らしながら呟いた。 「ごめん…返事も聞いてないのに…」 俺は黙って席に座り直す。 その時だった。スラックスの携帯が鳴って、慌ててしまう。 取り出した携帯画面を見たら、本郷からの着信だった。 「ごめん、怜。ちょっと会社の奴からだから」 「あ、うん。どーぞ、出て」 「ありがとう…もしもし、本郷?どうしたの?」 電話の向こう側はガヤガヤと煩かった。恐らく近場の居酒屋だろうと思う。 「あぁ、悪りぃ。後にしようか迷ったんだけどさ、俺、山田の後に会社出たじゃん?」 「うん」 「なんか、出たとこで金髪の芸能人かモデルみたいなニイちゃんに声かけられてさ。」 「き、金髪?」 「そうそう。山田知らねぇかって。結構切羽詰まった感じで詰め寄られて」 「そ、それで?」 「うん、それで、山田なら今日、大学の時の友達と約束があるって言ってましたって伝えたんだよ。そしたら、顔色変わっちゃってさ」 俺は手のひらで顔を覆った。 その金髪男は…絶対に仁坂だ。 しかも、今日会う相手が怜だって気付いた。 「何処で会うんだって聞かれたんだけど、そこまでは…って言ったら、すぐどっか行っちまったんだけどぉ…山田ぁ〜、あんなイケメンと知り合いなら合コン呼んでくれよ〜!女の子集め放題じゃんかよ」 「アハハ、あの人そういうの誘っても来ないタイプだからなぁ」 何とか誤魔化すと、本郷は続けた。 「そうなの〜?勿体ねぇってか、合コンなんか来なくても、選び放題だわなぁ〜!あ、とりま、相手急いでたっぽいから、連絡しといた方がいいかなぁって!飲んでるとこ悪い!じゃ!」 「本郷っ!ありがとう!」 「お〜!」 電話がきれて怜に視線を戻す。 「大丈夫?」 黒い切れ長の瞳がジッと俺を見つめた。 「ぁ…あぁ…大丈夫、ごめん。」 「金髪の人…知り合いなの?」 どうやら、本郷のデカい声は漏れて聞こえていたらしい。 「あぁ〜…うん、多分、高校時代の同級生。最近、バッタリ会ったんだ」 「…俺と…同じだね」 「あぁ、出会ったのも……同じ日だったよ」 苦笑いするように顔を歪めた。
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