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ダメだ…頭が混乱してる。
何で?
何で仁坂が会社まで来てんの?
完全他人の本郷に、"切羽詰まった感じ"なんてバレてんの、全然仁坂らしくない。
怜と何処で会うか分かったら、仁坂はどうする気なんだよ。
「陽海?…大丈夫?顔色、良くないよ。」
「だ、大丈夫」
「クマも酷いし…ちょっと休んだ方が良いな。」
「最近、ちょっと寝不足で…本当大丈夫、ごめん」
「近くのホテル…部屋とってあるんだ。夜景が綺麗な場所でね…」
「怜…」
「答えはそっちで……シャンパンでも飲みながらにしたいな」
俺は俯いた。
こんな素敵な男からの告白、受けない方がどうかしてる。
仁坂は俺を玩具にした男だ。今更…。
会うのは…ジッポを返す時だけで良い。
俯いたまま、呟いた。
「うん…移動…しようか」
怜がどんな顔をしているのか分からない。
分からないままで良いと思った。
席を立ち、個室を出る。
怜は、会計は俺が持つから先に出ているように俺を促した。そこど押し問答するのも恥ずかしいだろうと、俺は一旦店を出た。
店を出て、夜風に吹かれる。
もうすっかり冷え込んで寒かった。
コートを引き寄せ、首を竦めた時だ。
背後からグッと腕を掴まれ、乱暴に振り向かされる。
そこには、息を切らせた仁坂が立っていた。
膝に手をつき、ハァハァと息を吐く。寒いはずなのに、彼の息は白く、キラキラした汗が、顎先に流れて落ちた。
「にっ仁坂っ!!」
「ハァ…ハァ…やっぱ…やっぱ返して」
「は、はぁ?何?…あぁっ!ジッポ?待って、今持ってる」
「ちげぇよっ!!ピアスっ!」
「…だっ…だってアレはいらないから…やるって言ったじゃん」
ギュッと拳を握って俯く。
そこへ怜が店から出て来た。
「陽海?…あぁ…もしかしてさっき電話で言ってた方?」
怜が俺と仁坂の間に立つ。
「…あんたか、大学ん時の」
「初めまして…宮沢怜です。」
怜は仁坂に握手を求めるように手を差し出した。
仁坂はそれを無視する。
握られなかった手をジッと見下ろす怜。
「…陽海に何か用ですか?」
怜は苦笑いしながら問いかけた。
それなのに、仁坂はフンと鼻で笑った。
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