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3 酒が進むはずない。 目の前に座る王子様の仮面を被った仁坂累はこの居酒屋に入った時より随分と機嫌が悪くなっていた。 原因は俺がほとんど喋らないからだろう。 高校二年の時に知り合い、卒業してすぐに上京して以来だから、19歳から数えると今年27になる俺たちは九年ぶりの再会になる。 今更何を話したものか、いまだに陰キャとしてひっそり暮らす俺には話題らしきものは浮かばなかった。 いや、そうじゃない。確実な事を言うなら、俺はこの男が言うように、あの時、逃げたから喋れないのかも知れない。 「今は何?サラリーマンしてんの?」 タバコの灰を灰皿に打ちつけながらこっちをジッとみているのが分かる。 俺は小さく頷いて、自分のビールをグビッと煽った。 「おぉ〜、良い飲みっぷりじゃん。てか、相変わらずすぐ赤くなんのな」 伸びて来た指先が俺の首筋を撫でた。 体がビクッと縮こまる。 「…何もしねぇよ。こんな人が多い場所で」 仁坂はニヤニヤ笑いながらそういうと、俺をジロジロ見つめながらジョッキを傾けた。 膝元に置いた手を見て腕時計を確認する。 あぁ…もう9時を回った。予約し忘れたから今回のドラマは諦めるしかない。何だってこんな事に。 奥歯を食いしばりながら、減らない唐揚げを睨みつけた。 「移動する?…人が居ない場所に」 唐揚げの皿を視界から引き上げられ、俺はハッと彼を見上げた。 「い、いや、俺は…」 「昔みたいに可愛がってやるよ。どーせ、一人なんだろ?」 仁坂の言葉にゴクリと唾を飲み込む。 仁坂と俺の関係…。 それはあの携帯修理に向かった日に、何かがおかしくなったんだ。 それまでは、ただのクラスメイト。 友達でもない。ただの同じ教室にいる、人種の違う人というだけだったのが…。
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