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高校二年
春
陽キャ集団が教室で始めたサッカーのボールが、俺の携帯を直撃。手元から飛んでいったソレは、見事に数メートル先で画面を破損した。
携帯を修理に出そうと、仁坂と学校を出たその日、彼は何だか機嫌が良くて、よく喋っていたのを覚えている。
俺は、初めて同級生と下校という異常な事態と、相手が誰よりも華やかな学校一の派手男、仁坂である事に、多少浮き足だっていたのかも知れない。
質問される内容に、素直に答えていた。
何が好き?
ドラマ
好きな食べ物は?
バニラアイス
彼女は?
居ない
付き合った事は?
ない
童貞?
…そうだよ
一人でするの?
…恥ずかしい事聞かないでよ
じゃ、スポーツは好き?
インドア派なんだ
色白だもんな
くすぐったいよ
仁坂は距離が近かった。
肌が白いと言いながら、抱いた肩を引き寄せ、首筋を何度も触ってきた。
陽キャはこんな風に密着して距離が近いんだなと、俺は友達という体温を初めて経験していた。
他愛もない話をしながら、商店街の携帯ショップに行き、修理の見積もりを出して貰い、仁坂は家にお金を取りに行くから来てくれと言った。
俺は断ったんだけど、バイトしてるから金はあるし、悪いのは自分達だからと強引に彼の家に招かれた。
仁坂の部屋は、当時からお洒落だった彼らしいシックな部屋で、黒いシーツのベッドが印象的だった。
俺の部屋の布団といったらおばさんが寝ているようなごくありふれた花柄のものだったからだ。
ソワソワして落ち着かなかった。
どこに座っていいかも分からず立っていると、仁坂はベッドに腰掛けて良いと言った。
修理代を頂いたら帰ろうと思っていたのに、仁坂はお茶を出したりして、何か話さなければならない雰囲気が漂っていた。
友達とはこういうもんなのかも知れない。
俺は青春ドラマで観たような光景を思い出しながら、不慣れな友達の家、というのを堪能していた。
「山田ってさ、興味ないの?」
「何が?」
「女とか、セックスとか」
「…そ、そりゃ…人並みにはあるよ」
「あるんだ…」
「へ、変じゃないだろ?仁坂はいつも連れてる女の子が違うけど…彼女ってわけじゃないの?」
仁坂は隣にドサッと座り、俯いて呟いた。
「彼女…ってわけじゃない」
「そ、そっか…仁坂はモテるもんね。」
「まぁ…」
彼はぶっきらぼうに、つまらなさそうにそう呟き、そのまま何故か俺に覆い被さって来た。
グラッと視界が揺れ、フワッとベッドに背中が埋もれた。
俺の顔の横には、仁坂の腕が二本突っ張ってあり、顔を正面に向けると、彼の綺麗に整った顔が俺を見下ろしていた。
「興味あんだろ?」
「は?え?…ン…んぅっ!?!?」
「ハハ、すげぇ顔」
仁坂は簡単に俺のファーストキスを奪った。しかも、いきなりディープキスだった。あっという間だったのだ。抵抗とか、そんな事より、唇の柔らかさや、舌の動きが気になり過ぎて、俺は呆然と離れていく仁坂を見つめていた。
笑われて、初めて自分の皮膚が熱くなるのを感じた。
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