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質問に答えづらいとソワソワしていると、髪を掻き上げる累の耳に目がとまる。
今更気づいた。
累の耳に赤い玩具の光を放つピアス。
「あぁ、何?これ?」
ジッと耳を見つめる俺に気づいた累は耳たぶを引っ張った。
「コレは…おまえが置いていったピアスだろ?」
前は知らないなんて言ったくせに、諦めて観念したように自嘲しながら微笑む累。
「だから…ずっと…ずっと側に置いてた」
「ぇ…」
頼りない声が漏れる。
「おまえは…九年前…どうして」
また深く考え込むように俯き、テーブルの上に置いた手をギュッと拳にする累。
俺は肘をついて、手を組んだ。
そこに顔を寄せて、こもるような声で話し始めた。
「九年前…俺は、仁坂累が…好きだった…も、勿論、累が遊びなのは承知してたよ…俺とは住む世界が違う人だったもん…それは当然」
向かいで累が苛立っているような息を吐いた。
「…で?」
相槌にビビりながらも、俺は続けた。もう、話さないで避けるより、話して気持ち悪いと思われる方が良いだろう。俺の気持ちは、燻ったまま、永遠に煙を上げ続けてしまう。まるでどんなに離れていても、自ら累に見つけて貰うような…そんな執着の狼煙だ。
「好きで…好きで仕方なかった。赤い髪も、セックスした後に寝ちゃう寝顔も、話す声も…だからあの日…卒業式の日…俺は逃げたんだよ」
「あの日…」
苦い記憶かのようにギュッと顔を顰める累。
「累に、今日で終わりだって言われるのが怖かった。俺は東京に行かなきゃならなかったし、累の進路を…俺は怖くてずっと聞けなかったし…さよならを言われる前に…そのピアスを置いて…部屋を出たんだ…」
「何でピアスを?」
イラついたような表情のままギラッとコチラを見る累に、腕をだらんと股の間に下ろした。自分の手のひらを見つめながら話を続ける。
「俺を…忘れないで欲しかったから…俺との関係を…嫌な物にして欲しくなかったから」
脱力して言い切った俺の目の前で、累はダンッと小さく拳でテーブルを叩いた。
ビクッと身体が跳ねる。
「おまえはほんっとにバカだな」
累は唇を噛んだ。
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