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64 質問に答えづらいとソワソワしていると、髪を掻き上げる累の耳に目がとまる。 今更気づいた。 累の耳に赤い玩具の光を放つピアス。 「あぁ、何?これ?」 ジッと耳を見つめる俺に気づいた累は耳たぶを引っ張った。 「コレは…おまえが置いていったピアスだろ?」 前は知らないなんて言ったくせに、諦めて観念したように自嘲しながら微笑む累。 「だから…ずっと…ずっと側に置いてた」 「ぇ…」 頼りない声が漏れる。 「おまえは…九年前…どうして」 また深く考え込むように俯き、テーブルの上に置いた手をギュッと拳にする累。 俺は肘をついて、手を組んだ。 そこに顔を寄せて、こもるような声で話し始めた。 「九年前…俺は、仁坂累が…好きだった…も、勿論、累が遊びなのは承知してたよ…俺とは住む世界が違う人だったもん…それは当然」 向かいで累が苛立っているような息を吐いた。 「…で?」 相槌にビビりながらも、俺は続けた。もう、話さないで避けるより、話して気持ち悪いと思われる方が良いだろう。俺の気持ちは、燻ったまま、永遠に煙を上げ続けてしまう。まるでどんなに離れていても、自ら累に見つけて貰うような…そんな執着の狼煙だ。 「好きで…好きで仕方なかった。赤い髪も、セックスした後に寝ちゃう寝顔も、話す声も…だからあの日…卒業式の日…俺は逃げたんだよ」 「あの日…」 苦い記憶かのようにギュッと顔を顰める累。 「累に、今日で終わりだって言われるのが怖かった。俺は東京に行かなきゃならなかったし、累の進路を…俺は怖くてずっと聞けなかったし…さよならを言われる前に…そのピアスを置いて…部屋を出たんだ…」 「何でピアスを?」 イラついたような表情のままギラッとコチラを見る累に、腕をだらんと股の間に下ろした。自分の手のひらを見つめながら話を続ける。 「俺を…忘れないで欲しかったから…俺との関係を…嫌な物にして欲しくなかったから」 脱力して言い切った俺の目の前で、累はダンッと小さく拳でテーブルを叩いた。 ビクッと身体が跳ねる。 「おまえはほんっとにバカだな」 累は唇を噛んだ。
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