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7 「教えたくないならいいわ」 仁坂は持っていた携帯をポケットにしまおうとした。 俺は慌てて自分の携帯を差し出す。 「教えたくない……とかじゃ…ないよ」 その時、どうして自分の携帯を差し出したのか分からない。 このまま立ち去って貰えば良かったのに…。学生時代の甘く苦い思い出が蘇ったのだろうか。俺にとって、あれは恐らく初恋で、別れを意識した時に手にとった、赤い石のピアスを、仁坂の部屋に黙って置いてきたのを思い出していた。 玩具同然の安い品物だったけど、俺と居た事を嫌な思い出にして欲しくなくて、何となくそうしたんだと思う。 仁坂は俺の携帯を手にすると、画面をタップして番号を打ち込んだ。 ワンコール鳴らして、すぐに電話を切ると携帯を突き返される。 「LINE追加しとけよ」 「わ、わかった」 ぎこちなく返事をして、知らない番号の表示に仁坂累と打ち込んだ。 まさか、またこの名前が自分の携帯に登録される日が来るとは…。 「じゃ、また」 仁坂は俺の分の会計までも済ませて、居酒屋を先に出て行ってしまった。 俺は席から立ち上がったまま、さっきの番号から検索をかけてLINEを探す。 すぐに見慣れないアイコンが上がってきて、それはすぐに仁坂だとわかった。 写真はどこかの風景だったが、名前がルイとローマ字表記だったからだ。 「あ〜ぁ…ドラマ…終わっちゃったな」 ホテルに行く事を拒んだ理由を声に出すようにして、一人ポツリと呟いた。 仁坂は俺にサラリーマンをしているのかと聞いたり、彼女がいるか、男がいるかと聞いてきた。 俺は電車に揺られながら、仁坂の事を何も聞いてないことに気づく。 相変わらず派手髪で金髪がよく似合っていた。少し襟足の長いウルフカットというヤツだろう。 秋口に入って少し冷える日が増えたからか、黒のロンTに品の良いシルバーのアクセサリーをしていた。俺が黙って置いてきた赤い玩具のピアスは…当たり前だけど彼の耳にはなかった。 「相変わらず王子様だったなぁ…」 呟いてから、いや、相変わらずというより、昔より増し増しで格好良くなっていた。 あんな派手な形をしてサラリーマンなんてしているはずはないし… 過去の人…と言うべきか、仁坂の事に思考を巡らせていると、近所のスーパーで買い物をして帰らないとならない事を忘れるところだった。 一人暮らしのマンションの冷蔵庫は昨日使い切った卵が最後で、あとは少しばかりの調味料しか残っていないからだ。
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