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9 疲れた… 今日は厄日か何かだ。 スーパーで買った食材を冷蔵庫にしまいながら、片手間に缶ビールを開ける。 居酒屋で仁坂と飲んだビールは、緊張からか、全く味がしなかった。 冷えたジョッキでもない、何なら歩いて持ち帰った缶ビールは少しばかりぬるいのに、俺はゴクゴクと喉を鳴らしてプハァッとCMのように息を吐いた。 「食欲…ないな…」 呟きながら、部屋のソファーに沈み込む。 缶ビールを目の前のローテーブルに置いて、携帯を取り出した。 「えっ!…何これ」 仁坂から着信が三件、LINEがニ件。 怜から着信が一件、LINEが一件。 俺は仁坂のLINEを先に開く。 "電話出ろ" "明日、仕事何時終わり?会えるだろ?" 怜からのLINE。 "今日、会えて嬉しかった。明日、仕事終わりちゃんと会えないか?話がしたい" 俺は過去に身体の関係を持った二人から、明日の仕事終わりの時間を求められていた。 とりあえず何も考えられないまま缶ビールに手を伸ばす。 それは指先に当たり、缶をひっくり返した。 「うわぁっ!もうっ!何やってんだよ!」 慌てて缶を立て、干してあったタオルを引っ掴み、テーブルとテーブルから床に滴るビールを拭いた。 何が起こってる? 待て待て 冷静になれ。 あんなチャラ男と真面目男が、明日俺に何の用があるっていうんだ。 ビールが沁み込んだタオルをフローリングに押し付けるようにギュッと握る。 そうやって暫く固まっていると、携帯がフローリングでブーブーと音を立てた。 画面を見ると、仁坂からの着信だ。LINEに既読をつけたし、出ないのはおかしい。 慌てて画面をタップすると、向こう側からため息が聞こえた。 「おい、駄犬…何してた。」 「な、何って…今スーパーで買い物して帰ったとこだよ」 「ふぅん…俺の電話、三回も無視して?」 「ご、ごめん、普段鳴らないから気付かなくて」 今度は向こう側でフッと優しく笑う声が聞こえた。 「相変わらず、友達居ないんだな」 「…居ないよ」 言ってて虚しくなる。 仁坂は最初より機嫌の良い声で話を続ける。 「ならさ、明日、空いてんだろ?」 「あぁ〜…明日はぁ…」 「何?」 「あ、うん…残業が無ければ」 「マジで!じゃ、今日行った店で待ち合わせようぜ。」 「ぁ…うん、分かったよ」 「じゃあな」 「うん、おやすみ」 「…おやすみ」 明日会えると言った俺に、仁坂は随分テンションが上がっていたように感じた。気のせいかも知れないけど、おやすみが優しく聞こえた。 暫く仕事以外の電話なんてした事がないからかも知れない。 秋だからかな… 俺も人肌恋しいのかも知れない。九年ぶりに再会して、ホテルに行こうって言ってきた奴だ。優しく聞こえたのは下心…。 そこでハッと我に返る。 そういえば、怜からも明日誘われていたんだ! 何か返さなくちゃ…
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