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「逆だよ、逆。翔琉の前の藤野は、頑張ってあいつの演じてるって気がする。だって、どっちかっていうと、今のこの感じが藤野の素だろ」      佐々がそう言って、無遠慮に私を指差してくる。私がぐっと言葉を詰まらせると、佐々が得意げに口角をあげた。  膝の上にのせた手をぎゅっと握りしめると、私は動揺を見せないように深呼吸する。 「……佐々は、私が翔琉くんの前でだけぶりっ子してるって言いたいの?」 「そうじゃなくてさ。藤野って、翔琉から告白されて、ちょっと押される感じで付き合ったでしょ」  佐々の指摘に、また心臓がドキッとする。 「そう、だけど……。別に流されてるわけじゃ……」 「それならいいけど。翔琉も藤野も、俺には大事な友達だからさ。ちょっと気になった。余計なお世話だったらごめんな」  佐々が私を見つめてフッと笑う。  ちょうどそのとき、 「おまたせ、陽也(はるや)」 「朝香(あさか)〜、疲れた〜。俺、もう死ぬ……」  奈帆(なほ)が廊下の外からひょこっと顔を覗かせ、翔琉くんがずるずると上履きの踵を引きずりながら教室に入ってくる。  数学の成績がよくない奈帆と翔琉くんは、テスト前の補習に呼び出されていて。佐々と私は、お互いの恋人に放課後の教室で待たされていたのだ。  そんなときに、私に翔琉が好きかどうか訊いてくるなんて。佐々は、たまにデリカシーがない。  もしあのとき、タイミング悪く翔琉たちが教室に戻ってきていたら……。佐々はどう責任をとるつもりだったんだろう。
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