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「奈帆、補習おつかれ」
奈帆の姿を見るとすぐ、佐々が嬉しそうに眦を下げて歩み寄っていく。
「待っててくれてありがとう」
奈帆がかわいく笑いかけると、佐々はますます嬉しそうに口元を綻ばせた。佐々の横顔からは、ちょっとだらしないくらいに、奈帆への『好き』がただ漏れている。
運命、なんだもんね……。
『藤野、聞いて。俺、出会っちゃったかもしれない。運命に……!』
高校生になってすぐの頃、きらきらと目を輝かせた佐々からそんな告白を受けたときは、目眩がして、お腹の底が沸騰したみたいに熱くなって、その場で気を失って倒れるかと思った。それほど激しかった嫉妬心を、最近ではだいぶコントロールできるようになってきている。
「朝香は俺に労いの言葉をかけてくれないの?」
佐々と奈帆のことを無表情でじっと見つめていると、いつのまにかそばに来ていた翔琉くんが、私の肩に腕を回そうとする。
反射的にビクッと避けると、翔琉くんがわずかに頬を痙攣らせながら手をおろした。
「翔琉くんもお疲れさま。頑張ったね」
笑顔を作って翔琉くんの頭に手を伸ばすと、背中を丸めて姿勢を低くした彼が、ほっとしたように私を見つめてきた。
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