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「亜子ちゃん」
僅かに身体を離した亜柊さんは、ありえないほどの近距離で顔を覗き込んできた
「・・・は、い」
「覚えてる?」
「・・・えっと、?」
「えーーー」
眉尻をちょっとだけ下げて僅かに唇を尖らせただけなのに
世の中の女性全てに謝って欲しいくらい可愛い
じゃなくて
あっという間に腕の中に戻された途端、その唇は元いた耳のそばに戻ったようで、亜柊さんの呼吸と声に全身が甘い痺れを生んだ
「亜子ちゃん、僕に“好き”って言ったの忘れた?」
「・・・っ」
あれは・・・夢だったよ、ね?
でも・・・
触れた感覚はリアルに残っていて・・・答えを迷わせる
「あれは嘘?」
悲しげな声はゾワリと鼓膜を揺らして
「・・・違っ」
「だって、覚えてないんでしょ?」
夢かどうかなんて
どうでも良くなった
だから・・・
実は日々の暮らしに精一杯で、好きという感情が芽生えたことすら初めてなのに
本物かどうかを確かめる余裕も知識も待ち合わせていない
でも今は、それより
「・・・好き、です」
生まれたばかりの気持ちを曝け出したい
「嬉しいよ」
もちろん、同じだけの気持ちを返して欲しいなんて図々しいことは思っていないけれど
好きだと言われた訳でもないのに単純に嬉しい
その単純な勢いだけで
会ったばかりなのに大胆にも亜柊さんの胸に擦り寄っていた
「フフ、か〜わいい」
「・・・っ」
経験値?年の差?
全てにおいて敵いそうもない“差”を考えてみたところで
小さなコミニティで暮らしてきた私の脳内に導きだせる答えは無かった
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