孤独

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何度も捨てられては堪らないから私物は全て鞄に入れて持ち歩くようにしている だから鞄はいつもはち切れそうにパンパン その中からローファーを取り出して濡れた上靴と靴下を脱ぐ ジッパー付きのビニール袋に押し込んで鞄に入れると入り口の重いガラス扉を開けた 「・・・お、っと。まだ残っていたのか、早く帰るように」 出会したのは担任の山田先生 濡れ鼠の私を一瞥して目を見開いたのは一瞬で、その後は関わりたくないとばかりに視線を外して小走りに校舎へ消えた この学校に私の身を案じてくれる人は居ない 受け入れなくても良いから、せめて放っておいて欲しい そんなことを願ったのはいつだったか 収まりそうもない震えに自分を抱きしめながら、このまま熱が出たら休めるのに。なんて都合のいいことを考えていた 正門を出て、本来ならバス停を目指すけれど 濡れた制服に視線を落としただけで 今日は混み合うバスには乗れそうもないと諦めた とは言うものの此処から二つ目のバス停へは一本道 歩いたとしても三十分もあれば家に着くだろう 十二月の暮れの早さを案じながら少し早歩きを始めた 広い歩道ですれ違う人の反応は様々 しかし、濡れた制服と冷たい風が容赦なく体温を奪い続けているから無心で家路を急ぐ そうやって踏ん張っていた気持ちは 祖母に似た年齢の女性に声をかけられたことで脆くも崩れることになった 「ちょ、、それっ、アナタどうしたの ずぶ濡れじゃないっ 風邪でもひいたら大変、家は近く? アタシの家、ほら、其処に見える赤い屋根の家なの せめて乾かしましょう」 目尻の深い皺 優しく触れる手 なにより 私を心配してくれているという気持ちが伝わってきて、熱いものが込み上げてくる 「だい、じょ、ぶ、ですっ。家・・・すぐ、そこ、なので」 溢れ落ちそうな涙を必死で踏ん張って止めて 頭を下げると鞄の持ち手を強く握って駆け出した 肺が冷えて咳き込みそうになるのを堪えて走った先、我が家へと続く道を曲がった途端 堰を切ったように涙が落ちた
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