この部屋には二人の男が監禁されている。

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「あんさ」 「……はい」 「助けてくんね?」 「い、いや……ごめんなさい、無理だと思います。」 「えええ、そこをなんとか頼むヨォ。」 俺は今、人生最大のホラーな状況に置かれている。 正直足はガクガクだし、涙も浮かんでいる。 「だって、その……もう、首だけじゃぁキツイですよ……。」 そう。今、目の前にいる男が、いや、生首が、僕に助けを求めているのである。 「え!!!!!やぁ、どうりで地面が近いわけね!!!!!」 気づいてなかったのかよ。 「でもさぁ、なんで俺生首なわけ?」 「お、俺に聞かないでくださいよ。」 「だってこの状況……君がやったとしか考えられないけど。」 「……え?」 思い返してみれば、俺は仕事が終わった後気づいたら家に帰ってきていた。家に帰る途中の記憶が全くない。 「マンションの一室に俺と君だけ。こりゃ君がやったか、君が俺をここに運んだかっしょ?」 生首の周りには血の海と、そして、ノコギリがある。 「そうですけど、でも、本当に記憶がないので……も、もしかして、俺も拉致られてて後で首が斬られ……。」 「え、でもここお前んちじゃないの?スリッパ履いてるし。」 「本当だ。」 拉致られているのにスリッパを履く奴も、拉致ったやつにスリッパを履かせるやつもこの世には多分いないだろう。 「やっぱりお前が……。」 「絶対俺じゃないですって!そもそもあなたと面識ありませんし。」 「確かに?……ちょっとしゃがんで顔見せて」 その瞬間、彼は顔を歪め、小さな叫び声をあげた。 「なんですか、人の顔を見て失礼な。」 「お、おま、あの、ストーカーか」 「へ?ストーカー?やめてくださいよ。第一俺彼女いますし」 「でも……。あれ、でも確かに。かかってくる電話と口調も違うし……。髪型も違うな」 「うっ」 「どうした、大丈夫か?」 生首の人に心配されたくないんですが……。 と思っていたら、フッと視界がシャットダウンされた。 急に倒れたと思ったら、ストーカーにそっくりの男は再び起き上がった。そして、 「嬉しい、きみ、僕のことちゃんと見ててくれたんですね!」 髪をかきあげて、目の前のこいつはそう言った。 「いやぁ、大変でしたよ、生首になっても死なないようにするなんて。ほんと常識じゃ考えられないでしょ?まあ僕はやってのけたんですけどね?たくさんほめていただいて構いませんよ。」 「やっぱりお前か!」 「ふふ、さっき別人格の方が邪魔をしちゃって、悪かったです。楽しい二人だけの時間に水をさしちゃってごめんなさいね?」 別人格? 口の中に指を突っ込まれて、口の上の方を撫でられる。気持ち悪いけど、なんだか気持ちいい。 「ふふふ、かぁわいい。やっっっっっと僕のものになってくれましたね。……ああ、さっきから何をしてるかって?ふ、気持ち良くなってもらおうと思って。口は第二の性器とも言われてるらしいですよ。生憎あなたには愛撫を受ける身体も僕を受け入れる下半身も残っていませんから、これしかできませんけど、勘弁してくださいね?もう、残念でたまりませんよ。……あ、大丈夫ですよ、体の方はホルマリンにつけてちゃんと保存してあるところは保存してありますし、内臓は食べて僕の血液の一部にしましたから。もう一緒になってるんですよ僕たち。これって実質性行為みたいなもんですよね。きみの一部が僕の中に入って、ドロドロに溶かされて、それから僕の一部になってるわけですから。」  「俺の体が食べたかったから俺を首だけにしたの?でもなんで生かしたの、首だけにしてまで。」 「その状態で生命を維持するのには、ずっと僕の作った薬をきみに投与し続けなければならない。と言うことは、きみは僕に依存せざるを得なくなって、僕なしじゃ生きていけない体になる!あぁ、もうしちゃったけど、そう思ったからだよ。それに、絶対に逃げられることはないから、永遠に愛し合えると思ったんだ。」 逃げようと思っても逃げられない。そうして俺は、この部屋に、大嫌いなやつによって、一生縛り付けられることになった。 俺は、彼女を部屋に呼ぶことができなくなった。そして、浮気を疑われた俺は結婚も視野に入れていた彼女に振られた。俺には、ただずっとこの部屋で、綺麗なガラスケースに入った生首と暮らすという道のみが残された。いくらにげても、もう一つの人格が現れた時点でこの部屋に戻ってきてしまう。 俺は一生、この部屋に縛り付けられる。
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