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思わずひっ、と息を呑んだ。彼にぐっと腕を掴まれ、エレベーターから引きずり降ろされた。周りに誰もいないので、この異質な状況の目撃者はいない。だから悪天候の日を狙ってきたんだ……。彼の周到さに背筋が寒くなった。
「椿。お帰り。待っていたんだ」瑛士の顔色は青白く、その眼差しには深い闇を隠していた。
「瑛士…どうしてここに?」
間抜けな質問しか浮かばないけれど、それすら言葉にしようとすると声が震える。
どうしよう……悠斗さん、助けて!!
「ずっと待っているのに、どうして連絡してこないんだ?」
「どうしてって…あなたとはもう終わりにしたじゃない」
「終わった? 誰が決めたんだ。なにも終わってないだろ。お前が連絡してこないから、今日は俺の方が来てやったんだ」
瑛士の態度が急変する。優しく言っても私が反抗的な時は、いつも威圧的になるのだ。今もそう。
「この前、もう無理だって言ったでしょ。あなたとの婚姻を続けることも、結婚を考えることもできないって、そう言ったじゃない。だから終わったの!」
瑛士は私の腕を更に強く掴んで部屋の方へと強引に引っ張った。離して、と訴えるが聞く耳を持ってもらえない。あまりに強引だったので、スーパーの袋が避け、玄関の前にジャガイモがバラバラと飛び散って転がった。
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