【第3話 - 偽愛者】

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「息切れしていますが、どうされましたか?」 「楽しみ過ぎて走ってきました!」  どんだけ子供なの……!  思わず目を細めて笑うと、悠斗さんが「笑わないでください」と照れたように鼻の頭をかいていた。  普段は物腰柔らかでややクールな印象のある悠斗さんだけれども、知れば知るほどその姿は違っていて可愛らしいものだった。そんな彼の姿勢は緊張しているようにも見える。 「お邪魔してもよろしいでしょうか……?」 「ええ。どうぞ」  早速中に入ると悠斗さんが興味津々な様子で部屋を眺めた。そりゃ、Y2のすごいオフィスで働くCEOからすればこんな狭い家、珍しいよね。  ただ、自宅の1LDKは限られたスペースだけど、私はシンプルで機能的なインテリアを心がけてきた。リビングに置いてある淡い色のソファーと、木の温もりを感じさせるコーヒーテーブル。壁に飾った大きめの絵やフォトフレームは、私の思い出や花の写真たちを映したものだ。  キッチンはオープンタイプで清潔感を第一に考えて配置している。窓際に置いたハーブの鉢植えは、時々料理のアクセントにしている。ダイニングエリアは小さいけれど、木製のテーブルと椅子が並び、上の小さな花瓶には季節の花が彩を添えている。  彼は私の部屋の隅々まで目を通して、「椿さんらしい素敵な空間です!」と褒めてくれた。  狭くても綺麗にしていればそれなりに見栄えもするし、満足してもらえるものなのね。
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