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「八神社長、大変名誉なお言葉ありがとうございます。ご満足いただけたのであれば、今日はこれで帰らせていただきます」
「うーん…これでは満足できませんね。今日のお仕事、あと三十分くらい延長できますか?」
これでは満足できませんね――その言葉を聞いて衝撃だった。まさか文句を付けられるとは思っていなかった。しかし他の店舗や会社でも、こちらのイメージと相手のイメージの相違により思ったようなデザインが違うという理由でアレンジのやり直しをさせられることもある。
大抵はお任せして下さったアレンジに心から向き合い、その人となりや好みや季節を織り交ぜたお花を提供しているので、満足いただけていると自負している。
でも、今回のアレンジは確かに白色が少なかったと思う。八神さんはサブスク契約を交わしてから花に精通するようになってしまったため、普通の方ならオーケーいただける作品でも、見る目が鍛えられてしまった彼には通用しなかったのか――やり直したもので十分オーケーをもらえるだろうと勝手に思っていた。高慢な気持ちで作ったわけではなかったのに、満足できないと言われてショックだった。
「申しわけございません。すぐにやり直します!」
『婚約者の浮気を知ってしまった』という邪念を持っていたからこそ、その気持ちが花に現れたのかもしれない。うまく隠したつもりだったけれど、やっぱりできていなかったんだ。未熟な自分が嫌になる。
今の状態で自信まで失くしてしまったら次の現場で使い物にならない。初心を忘れるな、お客様に満足いただけるまで誠心誠意尽くそう――荒れた心に喝を入れ、無理やり気持ちを奮い立たせた。
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