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「あっ。違うのです! 椿さんが直してくださったアレンジはこのままにしておいてください。大変気に入りましたから大丈夫です!!」
「……? では、ご満足いただけない箇所を教えていただけますか? 私が気が付いていないだけで、なにか失態を犯していたのでしょうか?」
八神社長は難しいことをおっしゃる。凡人の私には理解できなかった。困った表情で尋ねると、八神社長は慌てて手を振って満足していないという言葉を訂正した。
「満足していないというのは、椿さんとのおしゃべりの時間です。決して椿さんが作って下さったお花に対してではありません。今日はあなたと全然お話をしていません。ですから、僕のために三十分お時間をください。よろしいでしょうか? 延長のお代金が必要ならお支払いしますので」
「いえ、特にそういった延長サービスはやっておりませんので、ご満足いただけるまでお付き合いさせていただきます。お話だけでいいのですか? 本当にお花は大丈夫ですか?」
心が揺れ動いているため、些細な言葉でも不安になってしまう。特に自信を失いかけている今は――
「もちろんですよ! お花は毎回満足しています。それより次の現場のお時間は大丈夫ですか?」
「はい。予定は一時間後なので、三十分ほどなら時間を取れます」
仕事が押して次の現場に迷惑をかけるようなことはできないので、時間の調節はいつも余裕を持っている。
「そうですか」ぱっと八神社長の顔が明るくなった。「ではこちらへお掛けになって、少しお待ちください」
結局社長に押し切られてしまい、来客用の応接ソファーに案内された。彼は私に微笑みかけると社長室を早足で退出していった。
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