【第1話 - 背信者】

11/25
前へ
/249ページ
次へ
 一人きりで取り残された広い室内を見渡してみる。私の一人暮らしの部屋より広さがありそうだ。  前から思っていたけれど、八神社長が使っているこの社長室は本当にお洒落だ。ガラス張りでその窓からは都内が一望できる眺望を持ち合わせた今どきオフィスの社長室。内装の壁は白を基調としたシンプルなデザインで、現代の美意識が詰め込まれた壁紙の一部は、淡い模様が刻まれていてあまり見たことのないデザイン。そして値段がとても高そうだ。庶民の私には都内のオフィスに利用されている壁紙ひとつ、値段の想像もつかない。  ダークブラウンの応接テーブルは壁の白さとは対照的で、上品な木材の造り木目のひとつひとつが美しい光沢を放っている。木製一枚板のテーブルは私の想像より遥かな高級品なのだろう。その上に私が先ほど仕上げたアレンジ花が彩を添えるように置かれていた。  深い色彩の豪華なソファーは座るとぐっとお尻が沈んでいくほどの柔らかさ。革張りだから絶対に高級なやつだ。汚さないように気を付けよう。できるだけ浅く座ることにした。おかげで自然に背筋が伸びてくる。  一通り内装を見て正面を向くと、目の前にちょうどアレンジした花が見える。  社長がサブスク契約を決めてくれたのは、この部屋の殺風景さにあったと言っていたのは過言ではない。花がひとつ入ることによって、この部屋がぐっと引き立つのは間違いなかった。
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6413人が本棚に入れています
本棚に追加