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「どういう……こと……?」
休憩室から漏れる聞き知った声は、情熱的で女性独特の甘さを保有していた。声を聞き、私は持っていた花の茎を思いきり握りしめた。その中に棘のある花が混じっていたらしく、固く閉じた指間から血が滲み出た。まるで今の私の心さながらに。
「んふふっ。まさか私と片桐がデキてるなんて、誰も思わないでしょー?」
「あのさ。俺もうすぐ結婚するんだけど」
「私はかまわないよ?」
「俺はどうでもいいのかよ。てか、椿に悪いとか思わないわけ?」
「だってあの子ニブいし。どうせ気づいてないでしょ。だったらこういう関係を持ったなんてわからないわ。どうせアッチも満足してないんでしょ?」
「まあな。それにしても悪い女に捕まっちゃったな」
「片桐だって悪い男じゃない」
くすくすと私を馬鹿にしたような笑い声が聞こえる。業務中のはずなのに、二人は一体ナニをしているのだろう。私は自分の婚約者である片桐瑛士(かたぎりえいじ)と、親友の山並里枝(やまなみさとえ)の親密な雰囲気に耐え切れずに後ずさりした。とても中に突入して彼らの関係を暴いたりはできなかった。
それにしても、今の……なに? 現実の話だよね?
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